国立銀行条例についてまとめました!
※「授業を聞いたり教科書を読んだりしてなんとなくわかったけど、いまいちわかった気がしない」っていう人向けに、要するにこういうことがやりたかったんだよ!ってのを説明したいと思います
要するに、、、
国立銀行条例について超ざっくり言うと、
過去に発行された紙幣を整理して、価値の裏付けがしっかりある新紙幣を発行しよう!
国内産業を育てるために、金融機関(お金を借りられる機関)を作ろう!
→よし、新たに銀行という機関を作ろう!
って感じです。
このあたりを理解できるように、まずは当時の状況(時代背景)について確認したいと思います。
当時の状況(時代背景)
新紙幣発行の必要性
貨幣制度は整った
1871年、明治新政府は新貨条例を出して江戸時代の貨幣制度を改め、近代的で新しい貨幣制度を成立させていました。
しかし、まだ問題が残っていました。
紙幣は整理されていない
統一的なわかりやすい通貨制度を確立するうえで、
過去に発行された様々な紙幣が障害となっていました。
具体的には、江戸幕府滅亡にともなって成立した明治新政府は軍事費と殖産興業の費用をまかなうために自ら大量に不換紙幣を発行していました。
- 太政官札
- 民部省札:太政官札では少額券が足りなかったため
不換紙幣とは、正貨(金や銀)に交換することができない紙幣のことです。新貨条例で金(ゴールド)を価値の裏付けにした硬貨を発行したけど、紙幣は価値の裏付けが不十分なままだったわけです。
また、藩も藩札という独自紙幣を発行していました。
このように、いろんな紙幣が発行されていてグッチャグチャだったし、新貨条例によって成立した新しい貨幣制度と過去に発行された紙幣はチグハグな感じになっていたのです。
これが1871年の状況。
そこで、明治新政府は
政府が発行した不換紙幣と藩札を整理しよう!
=新しい紙幣を発行しよう!
って考えました。
1872年、過去に発行された紙幣と引き換えるために、明治政府は新しい政府紙幣を発行します。
しかし、新たに発行された紙幣には2つの問題がありました。
- 不換紙幣であるという問題
- 発行主体が政府であるという問題
金貨と交換できる紙幣を発行したい
過去に発行された紙幣を整理するために新たに発行された紙幣は、不換紙幣でした。
※不換紙幣=正貨(金や銀)に交換することができない紙幣
新貨条例で金(ゴールド)を価値の裏付けにした硬貨を発行したけど、
紙幣は価値の裏付けが不十分なままだった
・・・という状況が続いていたわけです。
これじゃ国民は紙幣を持つのを嫌がるよね・・・って感じ。金貨と交換できない紙切れなんて本当に価値があるのかわからないので。みんな金貨の方を欲しがるはず。
そこで、明治新政府は
金貨と交換できる新紙幣を発行したい!
って考えました。
あと、紙幣を誰が発行するのか?についても課題がありました。
政府以外の機関が紙幣を発行するのがトレンド
政府が自分で紙幣を刷ればいい…!と考えもありますが、
実際、明治新政府も当初は自ら紙幣を発行していた(=政府紙幣)
明治新政府が欧米諸国の貨幣制度について視察・研究したところ、どうやら「お金を発行するのは政府ではなく別の組織(=Bank)」ってのが最先端の貨幣制度とされていたようです。
※bankは「銀行」と訳された
つまり「近代的な貨幣制度においては、政府は貨幣発行権を持たない」ということ。
(理由)政策を行う政府が自身で自由にお金を刷ることができてしまうと、貨幣の供給が過剰になってインフレになってしまうことが多い
※現代の日本も、紙幣は日本銀行が発行しています(日本銀行券)
※現代のアメリカも、紙幣は連邦準備銀行という中央銀行が発行しています
明治新政府も欧米諸国にならって「政府以外の組織(=銀行)に紙幣を発行してもらえないだろうか・・・」と考えます。
産業を育てるためには金融機関が必要
さらに、紙幣の整理とは別の観点の話ですが、明治新政府は欧米諸国に追いつくために国内産業を育てようとしていました(殖産興業)。
しかし、いざ「事業を立ち上げてそれで利益を出そう!」と思ったら、元手となるお金がたくさん必要です。手持ちのお金だけでは足りないことが多い。
なので、誰かからお金を借りたり(→金融)、投資してもらったり(→株式)する必要が生じます。
よし、銀行を作ろう!
前置きが長くて申し訳なかったですが(ここまで読んでくれてありがとうございます)、
以上のような事情、すなわち
過去に発行された紙幣を整理して、価値の裏付けがしっかりある新紙幣を発行しよう!
国内産業を育てるために、金融機関(お金を借りられる機関)を作ろう!
という事情から(=以上の目的を達成するために)、
「よし、銀行を作ろう!」
ということになりました。
ただ、政府自身が銀行を作るわけではありません。政府が銀行を作ったら、それって結局は政府の機関なので、政府が紙幣を発行していることになってしまいます。
よって、「政府が認可を与える」という形で民間の人たちに銀行を作ってもらうことにしました。
となると、「銀行」に関するルールを決める必要があります。
そうです、こうして作られたのが国立銀行条例です!
そして、政府から認可が与えられた銀行のことを国立銀行と言います。国(政府)が作ったわけではありません。
※ちなみに、1869年から日本初の西洋式銀行として全国8都市に為替会社が設立されていた(為替会社はBankの訳語)。為替会社は紙幣の発行が認められていて、一定額の金貨との兌換を約束した金券をすべての為替会社が発行した。が、経営は不振。1872年に国立銀行条例が制定された後、国立銀行に転換した横浜為替会社を除いてすべて解散することになった。国立銀行条例は為替会社での失敗のリベンジ・・・って感じ。
国立銀行条例(1872)
目的
金貨と交換できる新紙幣の発行
金融機関の設立
誰が制定?
伊藤博文・渋沢栄一らが中心となって1872年に制定
アメリカのNational Bankの制度を取り入れた(→この訳語が「国立銀行」)
※「国法」銀行って訳した方が実態に近かった
アメリカ式 | 伊藤博文が主張。ナショナルバンクを全国にたくさん設立して、紙幣(銀行券)を発行させる |
イギリス式 | 吉田清成が主張。紙幣(銀行券)は中央銀行のみに発行させ、一般銀行は預金銀行と位置付ける。 |
※現代の日本は中央銀行である日本銀行のみが紙幣を発行しているので、イギリス式です
紙幣をどうやって発行?
政府認可の民間銀行(=国立銀行)に紙幣を発行させる
紙幣に金貨との兌換を義務づけた
※何の制限もなく紙幣を刷られたら困るので、「国立銀行は資本金の60%まで紙幣を発行できるよ」ってことになっていた。「金貨に交換してくれ」って言ってくる人のために、資本金の40%は正貨で準備しておく。
どんな紙幣?
裏に各額面の金貨が描かれている(=金貨と交換できますよ!ってこと)。
うまくいった?
巨額の不換紙幣は銀行経由で大蔵省に回収され、正貨兌換の銀行紙幣が流通する見通しだった・・・
が、
銀行が発行した紙幣は人々に信用されず、
発行されるとすぐに兌換される(=金貨と交換される)ことが多かった
→新紙幣はあまり流通しなかった。
※紙幣の価値を金貨によって裏付けしたとしても、信用されていなかったら貨幣として機能しないということを象徴的に表していると思う。
※つまり、貴金属による価値の裏付けは紙幣の信用の十分条件ではないってことかな(この紙幣に「価値があり続けるだろう」という人々の信用がないと、いくら貴金属で裏づけようとしてもダメ)
結果、銀行は営業不振に・・・
そこで政府は方針を転換しました。
失敗にどう対応した?
そもそも銀行を設立しようとした目的は大きく2つあったわけですが↓
過去に発行された紙幣を整理して、価値の裏付けがしっかりある新紙幣を発行しよう!
国内産業を育てるために、金融機関(お金を借りられる機関)を作ろう!
ひとまず2つ目の目的である「金融機関の設立」を優先することにしたのです。
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参考文献
土方晉(1999)『横浜正金銀行(戦前円の対外価値変動史)』
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