九州地方

九州地方の工業がすごいワケ:地理が作った2つの工業をわかりやすく

モチオカ(望岡 慶)

九州は、日本の工業において二度、大きな役割を担ってきた。

明治時代には、日本の近代化を支える鉄鋼業の拠点となり、戦後には「シリコンアイランド」と呼ばれるほど、半導体産業が集積してきた。

鉄と半導体。異なる二つの産業が、なぜ同じ九州で発展したのだろうか?

その答えは、九州地方が持つ特有の地理条件にある。

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九州の地理と工業の関係

九州地方の工業は、九州特有の地理的な特徴と深く結びついている。特に次の3つが重要。

  • 日本の主要4島の中で最南端に位置し、暖流に囲まれている(→温暖)
  • 火山が多く、火山灰(シラス)が広く堆積している
  • 外国(朝鮮半島や中国など)に近い

この3つの条件が、九州の工業を日本の中で特別なものにしている。

関連:九州地方の自然環境(地形・気候)をわかりやすく

日本の最南端からこそ

年間を通じて日照時間が長いため、太陽光発電の導入が全国トップクラスで進んでいる。そのため、工業に不可欠な電力の料金が安い。

※ただ、太陽光発電は電力コストを抑える一因ではあるものの、それだけで安価な料金が実現されているわけではない。電力料金が安い主な理由は「原子力発電所の再稼働」と「地熱発電の豊富さ」である。

火山が多く、火山灰が広く堆積しているからこそ

シラス台地は農業では稲作に不利だが、工業には大きな利点をもたらした。

火山灰は水を浸透しやすく、火山灰の地層が天然のフィルターとなることで、浄化された良質な地下水を生み出す。このため、半導体製造に欠かせない超純水を安く大量に得ることができる。

また、活火山が多いため、地熱発電にも適している。これも電力コストを下げる要因のひとつとなっている。

熊本県の阿蘇カルデラ(2022.7撮影)

外国に近いからこそ

大陸との距離が短いため、鉄鋼業の時代には石炭・鉄鉱石などの資源輸入に有利だった。

現代では、アジア市場に近いという強みを活かして、半導体などの製品輸出でも優位性を発揮している。

鉄鋼業 @北九州工業地帯

なぜ日本最初の官営製鉄所が北九州に作られたのか?

原料・燃料・製品の輸送コストを安くできる上、防衛にも優れた立地だったから。

  • 燃料となる石炭は、近くにある筑豊炭田から確保できる。
  • 原料となる鉄鉱石を産出する中国に近い。
  • 門司港という国際港がある。
  • 防御的に優れる湾奥に位置する。
八幡製鉄所の旧本事務所 眺望スペースにて(2022.3撮影)
田川市石炭・歴史博物館にて(2022.3撮影)
Q
八幡製鉄所ができるまでの歴史

江戸時代末期に日本近海に外国船の出没が増えて、「海防が必要だ!」という意識になった。

アヘン戦争で中国が負けたのを見て、日本の特に九州の人たちが「このままじゃ日本も植民地になってしまう」って危機感を抱いた。

「鉄をたくさん作らなきゃ!」って思った。

が、従来の日本の技術(たたら製鉄)は西洋式の製鉄・製鋼技術と比べると劣っていて、精度が高く飛距離の長い大型の大砲を作ることは困難だった。

西洋式の製鉄・製鋼技術の導入を目指して試行錯誤。反射炉の研究が行われた。

ペリーが来航する前から、佐賀藩(鍋島藩)はオランダの書物を参考にして反射炉を作っていた。

※ペリー来航がきっかけで、江戸幕府直営の反射炉として伊豆で韮山反射炉が築造された(佐賀藩に助けてもらって)。

岩倉使節団が、イギリスに渡航した際に鉄について学んだ(パークスなどから)。

釜石に製鉄所を作り1880年から操業を開始したが、うまくいかず(1883年廃業)。

八幡製鉄所の旧本事務所 眺望スペースにて(2022.3撮影)

日清戦争に勝利した日本は、伊藤博文内閣のもと「製鐵所設置建議案」を賛成多数で可決

製鉄所の候補地は4つ。

八幡に決定

1901年に、日清戦争の賠償金などを財源として官営八幡製鉄所が操業開始。

八幡製鉄所の旧本事務所 眺望スペースにて(2022.3撮影)

関連:八幡製鉄所の眺望スペースを観光して学んだこと

なぜ北九州の鉄鋼業は衰退したのか?

  • 鉄鉱石の輸入先が中国からオーストラリアにシフトした。
  • エネルギー革命により炭田が閉山せざるを得なくなった。
  • 国内の他の地域で工業が発達した。
  • 外国の鉄鋼業が発達した。

関連:なぜ中国は粗鋼生産が多い?なぜ鉄鋼業が盛ん?

関連:アメリカの鉄鋼業が衰退した理由

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半導体関連産業 @シリコンアイランド

「水」「電力」「輸送」という半導体製造に不可欠な3つの条件を、九州は高いレベルで満たしていた。

良質な水九州地方に広く堆積している火山灰は水を浸透しやすく、火山灰の地層が天然のフィルターとなることで、浄化された良質な地下水を生み出す。このため、半導体製造に欠かせない超純水を安く大量に得ることができる。
安価な電力活火山が多い九州は地熱発電のポテンシャルが高く、さらに全国に先駆けて原子力発電所が再稼働した。その結果、工場にとって重要な「安い電力供給」が可能になった。
輸送網九州は中国や東南アジアに近く、各地に空港が整備されている。このため、小型・軽量・高価格な半導体を効率的に輸出することができる。

これらの条件が揃った結果、九州は「シリコンアイランド」と呼ばれるほどの半導体集積地となった。

特に熊本には、世界最大の半導体メーカーTSMCなど、多くの関連企業が進出して産業クラスターが形成されている。

参考文献

熊本の地下水が豊富な要因. 熊本県ホームページ. https://www.pref.kumamoto.jp/site/mizunokuni-kumamoto/226157.html, (参照 2025-09-15).

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