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なぜ中国は粗鋼生産が多い?なぜ鉄鋼業が盛ん?

モチオカ(望岡 慶)

中国は世界の粗鋼の半分以上を生産している。

なぜここまで中国で鉄鋼業が発展したのか?

その理由は、「鉄鋼を作るには何が必要か?」という視点から考えると見えてくる。

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高炉での鉄鋼業に必要なもの

鉄鋼業、特に高炉を用いた製鉄には、次のような要素が欠かせない。

① 原料の安定調達

鉄鉱石:主な鉄の原料。酸素と結びついた状態で存在するため、還元が必要。

石炭(コークス):鉄鉱石から酸素を取り除く還元材であり、高温を生み出す燃料でもある。

国立科学博物館にて(2025.4撮影)

② 技術力とインフラ

大型設備と制御システム:高炉、送風設備、原料の供給・排出装置などを安定稼働させる技術。

高温の維持:高炉内では約2000℃の温度が必要であり、これを維持できるだけのエネルギーと装置が不可欠。

官営八幡製鉄所 旧本事務所 眺望スペース @北九州(2022.3撮影)

③ コストの低さ

エネルギーコスト:高温を維持するには大量のエネルギーが必要。燃料が安価であることが望ましい。

人件費:高炉は自動運転が進んでいるものの、原料の投入管理や品質の監視、トラブル対応などで熟練作業員が不可欠。一定の人手を必要とする産業であり、労働コストの低さが競争力を左右する。

環境規制の緩さ:鉄鋼業は二酸化炭素や粉じんなどを多く排出するため、環境規制が厳しい国ではコストが上昇しやすい。

中国は鉄鋼業に必要な条件を満たしていた

中国が世界最大の粗鋼生産国になったのは、前述の「高炉による製鉄に必要な条件」を高いレベルで満たしていたからである。

① 原料の安定調達が可能だった

鉄鉱石:オーストラリアやブラジルといった資源国から、大量の鉄鉱石を安定して輸入できる体制を構築していた。

石炭:還元材として必要な石炭については、中国国内に豊富な埋蔵量があり、自給が可能。

② 技術導入と設備投資

設備拡充:国家主導の産業政策により、大規模な製鉄所が全国に建設された。

技術移転:1970年代以降、日本など先進国から高炉や製鋼技術を導入。とくに日本の製鉄会社から学んだ技術が、現在の中国鉄鋼業の土台となっている。

関連:日鉄、「大地の子」の半世紀に幕 中国縮小し米印シフト(日本経済新聞)

③ コスト面で有利だった

環境規制の緩さ:かつての中国は環境規制が比較的緩く、他国では高額な環境対策コストを低く抑えることができた。

人件費の安さ:沿岸部に比べて内陸部では労働コストが非常に低く、一定の人手を必要とする鉄鋼業にとって競争力の源泉となった。

エネルギーコストの抑制:自国産の石炭によるエネルギー供給により、燃料コストを抑えることができた。

鉄鋼製品の需要があった(=売る相手がいる)

中国の鉄鋼業が成長できた背景として、「作った鉄鋼を売る市場が国内外に存在していた」という点も重要。

国内需要の急拡大

中国国内では、経済成長にともなう都市開発やインフラ整備が急速に進み、高層ビル、橋、鉄道など、大量の鉄鋼を必要とするプロジェクトが全国で展開された。

海外市場への輸出

中国の製鉄所は巨大な生産設備を持ち、スケールメリット(大量生産によるコスト削減)を最大限に活かすことができた。その結果、1トンあたりの製造コストが低く、世界でもっとも安価な鉄鋼製品を大量に供給できる体制が整った。

こうした低価格の鉄鋼は、新興国を中心とした多くの国にとって魅力的であり、中国は世界有数の鉄鋼輸出国としての地位を確立することができた。

国際分業という視点で見ると…

鉄鋼業はCO₂排出量の多い産業である。とくに高炉を使う製鉄では、大量の石炭を消費し、粗鋼の生産過程で大量のCO₂を排出するため、地球温暖化の大きな要因とされている。

そのため、環境規制が厳しい先進国では、鉄鋼業は「できれば国内ではやりたくない産業」になりつつある。これが、鉄鋼業をめぐる国際分業の構図を生み出している。

汚れる仕事は新興国に

CO₂を多く排出する「高炉による鉄の大量生産」は、中国やインドなどの新興国が担っている。

  • 低付加価値・大量生産の鉄鋼(=一般鋼材・構造用鋼など)

儲かる仕事は先進国が担う

一方で、日本やアメリカ、EUなどの先進国は、高機能・高付加価値の鋼材の生産に力を入れている。

たとえば

  • 自動車や航空機に使われる高強度鋼材
  • 電気機器向けの特殊鋼

といった、高い技術が必要とされる製品群である。

まとめ

中国は、鉄鋼業に必要な条件を満たしていたことに加え、国内の建設需要と外国からの需要を背景に、世界最大の粗鋼生産国へと成長した。

現在では、CO₂排出の多い鉄鋼業を新興国が担い、付加価値の高い製品づくりは先進国が担うという国際分業の構図ができあがっている。

鉄鋼業界のこれから

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