中国の政治の仕組みをわかりやすく:建前では民主主義国だけど・・・
中国は「人民の選挙によって成り立つ国家」として、議会・政府・裁判所などの制度を整えている。
しかし実際には、中国共産党がすべての権力を握り、国家のあらゆる組織を支配している。
つまり、中国では「国家の制度」と「共産党の支配体制」が二重に存在しており、建前と実態のあいだに大きなズレがある。
この記事では、中国の政治の仕組みを「建前(国家制度)」と「実態(党の支配)」に分けて整理する。
中国の国家構造(建前)
中国の憲法上は、全国民による選挙が行われ、人民の意思によって政府がつくられる仕組みになっている。
日本や欧米と似たような形の「三権分立」や「地方自治」も制度上は整っている。
地方政府のしくみ
地方各級人民代表大会
地方レベルの「議会」。省・市・県・村などに設置されており、住民の選挙によって代表が選ばれる。
この代表大会が、地方政府の予算や方針を決定する権限を持つとされている。
地方各級人民政府
地方レベルの「行政機関」。人民代表大会によって選ばれた行政長官(たとえば市長や県長)を中心に運営される。
一応、地方代表大会に対して責任を負う建前になっているが、実際には中央政府(国務院)の指導・監督を受ける。
中央政府のしくみ
全国人民代表大会(全人代)
中国の最高立法機関で、日本の国会にあたる存在。
地方の各級人民代表大会で選ばれた代表たちが集まり、国家の基本方針を決める役割を担う。
毎年1回開催され、以下のような重要な決定を行う
- 法律の制定・改正
- 国家主席や首相(国務院総理)の選出(形式的)
- 政府の予算案や政策の承認
※制度上は非常に権限が強いとされているが、実際にはすべて中国共産党の決定を追認する場に近い。
国家主席
国家の元首。全人代で選出される。
外交儀礼の場では中国の代表としてふるまう。現在は習近平がこの地位にある。
国務院
国家の行政機関であり、日本の内閣に相当する。
全人代が選出した国家主席によって任命され、実際の政策執行や各省庁の運営を担う。
トップは「国務院総理(首相)」で、行政の中心的存在となる。現在は李強がこのポストにある。
中央軍事委員会
中国軍(人民解放軍)を統括する最高指導機関。
形式上は全人代によって選ばれたメンバーが構成し、軍の運用方針や指揮権を持つ。
※ただし、実際にはこの機関も中国共産党の支配下にあり、「国家の中央軍事委員会」と「党の中央軍事委員会」は事実上同一人物によって運営されている。
司法制度
中国の憲法上は、日本や欧米と同じように、裁判所が独立した機関として存在している。
最高人民法院
中国における最高裁判所で、全国にある裁判所の最終判断を行う機関。
形式上は、裁判官は全国人民代表大会(全人代)によって選出される。
地方各級人民法院
省、市、県など、各地方に設置された裁判所。
裁判官はそれぞれのレベルの人民代表大会で選出される。
日常の訴訟やトラブル処理など、国民にとって身近な司法機関として位置づけられている。
【建前】まとめ
ここまで見てきたように、中国の国家のあらゆる組織は、元をたどればすべて「人民の選挙によって正当性を得たもの」とされている。
あくまで「建前」としては、中国は共産党と切り離された独立した国家機構を持っているのである。
現実の政治
しかし実際には、中国の政治は建前どおりには機能していない。
すべての国家機関(議会、政府、裁判所、軍)の背後には中国共産党が存在し、実質的なコントロール権を握っている。
加えて、政治的な自由は厳しく制限されており、共産党以外の政党が権力を持つことは認められていない。

国家主席、全人代、国務院は共産党の影響下
制度上は、国家主席・全国人民代表大会(全人代)・国務院は「人民の選挙によって正当性を得た独立した国家機関」とされている。
だが実際には、中国共産党がそれぞれの人事や意思決定に強い影響を持ち、完全にコントロールしている。
中国共産党全国代表大会(党大会)
5年に1度開催される中国共産党の最高会議。全国から選ばれた党員代表が出席する。
この大会では、
- 党の基本方針や規約の決定
- 党中央委員会の選出
などが行われる。
中国共産党中央委員会(党中央)
党大会で選ばれた委員からなる組織で、名目上は党の最高意思決定機関。
だが、実際に強い権限をもつのは、この中央委員会の中からさらに選ばれる「政治局」や「政治局常務委員会」。
特に、政治局常務委員会のメンバーが、事実上の中国の最高指導者たちであり、国家のすべての重要政策を決定する。
国家主席や首相、軍のトップなども、この政治局常務委員の中から選ばれるのが通例である。
共産党各級委員会
地方レベル(省・市・県・村など)には、それぞれ共産党の地方組織(党委員会)が設けられている。
例:上海市党委員会、四川省党委員会など。
これらの地方党委員会は、それぞれの地方政府(人民政府)よりも実質的に強い権限を持ち、地方の政治も共産党が支配する構造となっている。
地方政府は、あくまで「党が決めたことを実行する」執行機関にすぎず、意思決定の権限は党にある。
人民による選挙もクリアではない
選挙が実質的に自由ではない
中国では、制度上は「人民の選挙によって政府がつくられる」とされている。
だが実際には、自由な政党間競争が存在せず、選挙が民主的に機能しているとは言いがたい。
- 立候補には共産党の推薦が事実上の前提
- 共産党以外の政党も存在するが、いずれも「衛星政党」として共産党の方針に従う存在
- 無所属候補が立候補することは制度上可能だが、当選は極めて困難
つまり、「選挙」はあっても、「選択肢」がないのが実態である。
民主主義を支える「市民社会」が弱い
民主主義を成立させるためには、自由な報道・言論・教育・市民活動といった「市民社会」の基盤が欠かせない。
しかし中国では、それらが制度的・文化的に大きく制限されている。
- メディアは共産党の管理下に置かれ、批判的な報道は原則できない
- SNSや海外のウェブサイトは厳しく検閲されており、自由な議論の場が限られている
- 学校教育も、共産党の理念や歴史観を重視し、異なる視点を学ぶ機会が少ない
このような環境では、市民が多様な情報を比較検討したり、自分の意見を表明することが難しくなる。
結果として、民主主義的な文化や風土が根づきにくい社会構造となっている。
まとめ
中国の政治は「建前としての民主主義」と「実態としての一党支配」が重なり合う二重構造になっている。
形式上は選挙や議会があり、制度は整っているように見えるが、実際には共産党がすべてを支配し、国家の機関はその実行部隊にすぎない。
Q&A
中国って結局誰がエライの?
トップオブトップ=中国共産党のトップである「中国共産党の総書記」。中国共産党総書記が国家主席を兼務している。
トップの7人=「中国共産党中央政治局常務委員会」の7人。国家の最高指導部。中国共産党総書記(&国家主席)も、この7人から選ばれる。
エライ人たちってどうやって選ばれるの?
よくわからない。謎に包まれている。
関連:中国最高指導部の7人 謎に包まれたその役割とは?どう選ばれる?(NHK)
どうやったら出世できるの?
地方政府にはある程度の自由があり、「うまくやった地方リーダー」は出世するチャンスがある。
→中央の評価を得るため、成果に躍起となり、全国で不動産開発や過剰生産が発生。
中国の政治ってどこまで国民の声を聞いているの?
選挙で政権交代はできないが、民衆の不満が大きくなると、政府は対策をとることがある。