人間が生きていくには、食べることが必要不可欠。
では、何を食べれば健康に生きていけるのか?
人間は何を食べて生きている?
理想的なのは、次のようなバランスの取れた食事。
- 穀物(炭水化物):体を動かすエネルギー源
- 肉や豆(タンパク質):筋肉や内臓など、体をつくる材料
- 野菜や果物(ビタミン・ミネラル):体の調子を整える
中でも、最も多く必要なのが「エネルギー源」としての穀物。
三大穀物とは?
世界中の人々が主食として食べているのが、次の3つの穀物。
- 米:アジアを中心に
- 小麦:ヨーロッパ〜中東、北アフリカなど
- トウモロコシ:アメリカ大陸など
これらは「三大穀物」と呼ばれ、世界の農業の中心を担っている。
三大穀物はあらゆる面で便利。
特徴 | 理由 |
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カロリー効率が高い | 少ない面積でも多くの人を養える |
保存しやすい | 乾燥すれば長く保管でき、流通にも便利 |
加工しやすい | 米は炊く、小麦はパンや麺に、トウモロコシは粉や焼き物に |
機械化しやすい | 広い土地で一気に作れるため、大量生産に向いている |
用途が広い | 食用だけでなく、家畜のエサやバイオ燃料にも使える(特にトウモロコシ) |
三大穀物がなければ、今の人類の暮らしは成り立たないといっても過言ではない。
- 世界の主食の約90%が三大穀物に由来
- 世界の耕地の約半分が三大穀物の栽培に使われている
- 世界の80億人の多くが、これらの穀物でエネルギーを得ている
三大穀物はどこでも作れるわけではない。
穀物が育つには、気候・土壌・地形など、自然条件が大きく関係する。
三大穀物の栽培に適した地域
米
(2025.4撮影 @国立科学博物館)
条件 | 理由 |
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高温多湿 | 成長期に十分な気温と降水量が必要(特に20℃以上) |
水が豊富 | 水田で育てるため、水を引きやすい地形・水資源が必要 |
平坦な土地(または段々畑) | 水田を作りやすいようななだらかな地形 |
(例)
タイ バンコク付近。(2024.11撮影)
インド ガンジス川上空。(2025.2撮影)
Q
- なぜ稲作は連作できる?
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① 水田が土壌を守ってくれる(雑草・病害虫を抑える)
- 水田では田んぼに水を張ることで、空気が少ない(嫌気性)環境になる。
- この環境では、雑草や病害虫、連作障害の原因菌が繁殖しにくい。
② イネは連作障害を起こしにくい植物
- 一部の作物(ナス・トマトなど)は、同じ根から出る成分(アレロパシー)で土壌が悪化したり、病害虫が蓄積したりする。
- でもイネは、そういった連作障害を起こしにくい。
③ 水の力で肥料がよく循環する
- 水田は、肥料や土の栄養分が水と一緒に均等に広がりやすく、偏りが少ない。
- また、収穫後の稲わらを土にすき込むことで、有機物が再利用され、土壌の栄養バランスが保たれやすい。
- つまり、土がやせにくく、毎年安定して育てられる。
④ 田んぼは定期的に「乾かす」時期がある
- 稲作でも「代かき」や「田植え」の前後に、田んぼを乾かす(乾田化)時期がある。
- このとき、病害虫のリセットや酸素供給が行われ、土壌環境が改善される。
小麦
佐賀平野の麦畑。(2022.5撮影)
条件 | 理由 |
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温暖でやや乾燥した気候 | 雨が少なめの地域でも育つ(湿度に弱い) |
広く平らな土地 | 大規模に栽培でき、機械化に向く |
肥沃な土壌(特に黒土) | 成長に必要な養分が豊富な土地が望ましい |
排水性の良い土壌 | 小麦は深く根を張り、酸素を多く必要とするため、空気を含んだ「通気性のある土」が向いている |
(例)
- 北アメリカ中央部
- ウクライナ・ロシアの黒土地帯
- アルゼンチンの湿潤パンパ
Q
- 小麦が育ちやすい場所と牧草が育ちやすい場所は違う?
-
比較項目 | 小麦 | 牧草 |
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気温 | 温暖(春〜初夏)で20℃前後が理想 | 冷涼〜温帯。夏でもあまり暑すぎない方がよい |
降水量 | 少なめでもOK(やや乾燥した気候に強い) | ある程度の雨が必要(500〜1,000mm以上) |
土壌 | 肥沃で排水のよい土地(黒土など) | やや水分を保つ土壌もOK。土質は幅広く対応可 |
地形 | 広く平らな土地 | やや傾斜地でもOK。草が刈れればよい |
- 小麦は「乾燥気味+肥沃な平野」に向く:→ 例:アメリカ中央部(グレートプレーンズ)、ウクライナ、アルゼンチンのパンパ
- 牧草は「冷涼+適度に湿った草地」に向く:→ 例:ヨーロッパ西部(イギリス、フランス)、ニュージーランド、北海道、アルプス山麓
Q
- インドのデカン高原は小麦栽培に適していない?
-
小麦栽培に「まったく適さない」わけではないが、あまり向いていない。
1. 地形:高原で平地が少ない
- デカン高原は標高500〜1,000mほどの岩盤質の台地で、広くて平らな耕地が限られる。
- 小麦は一面に機械化できるような平坦地での栽培に向いているため、台地状のデカンでは不利。
2. 気候:乾季が長く雨が少ない
- デカン高原の気候は熱帯サバナ気候(Aw)に近く、モンスーン期(6〜9月)にしか雨が降らない。
- 小麦は気温が涼しい冬(10〜3月)に育てる「冬作物」なので、雨が降らない冬に栽培するには灌漑が不可欠。
3. 土壌:黒土(レグール土)は水持ちが良すぎる
- デカン高原には、玄武岩由来の黒土(レグール土)が広がっている。
- この土は綿花やヒマワリなどの乾燥に強い作物には適しているが、水はけが悪く、小麦にはやや不向き。
- また、小麦の根は比較的深く、酸素を好むため、重くて粘り気の強い黒土では生育に苦戦しやすい。
Q
- なぜ日本は小麦栽培に向かない?
-
1. 気候:湿度が高く、小麦には不利
特徴 | 説明 |
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梅雨(6〜7月) | 小麦の収穫時期と重なり、穂が湿ってカビが生えやすい(赤カビ病)。品質が落ちる。 |
高温多湿の夏 | 小麦は「やや乾燥した気候」を好むが、日本は夏に雨も湿気も多すぎて、生育に不向き。 |
冬の寒さが中途半端 | 東北・北海道を除くと、冬の冷え込みが不十分で、休眠がうまく進まない品種もある。 |
2. 地形と土地利用:平地が少なく、競争力が出にくい
特徴 | 説明 |
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国土の約7割が山地 | 広大な平地がほとんどなく、大規模な小麦畑を作れない。 |
水田利用が優先される | 平地は基本的に稲作に優先的に使われる。水田を乾かして小麦を育てるにはコストもかかる。 |
3. 土壌:栄養はあるが水はけが悪い場所も多い
- 小麦は水はけの良い土壌を好むが、日本の耕地は火山灰由来の重くて粘土質な土壌も多く、水分が残りやすい。
- 湿度と合わせて考えると、小麦にはやや不向きな土壌環境。
トウモロコシ
条件 | 理由 |
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高温で日照が多い | 成長に多くのエネルギー(太陽)が必要 |
水もある程度必要 | 小麦よりも水を使うが、米ほどではない |
広い土地・肥沃な土壌 | 高収量を目指して機械化・大規模化されることが多い |
(例)
三大穀物を作りにくい地域では?
自然条件によって、穀物栽培が難しい地域・向かない地域もある。
そうした地域では、その土地に合った別の農業の形が発達してきた。
湿潤で冷涼な地域
ニュージーランド オークランドにて。(2024.11撮影)
- 北ヨーロッパやカナダ、北海道など
- 気温が低くて穀物が育ちにくい地域では草が主に育つため、それを食べる乳牛を飼い、牛乳・バター・チーズなどを生産する酪農が発達。
乾燥地
エジプト(2025.3撮影)
- 中央アジア、サハラ周辺など
- 雨が少なくて畑作ができず、草しか育たない地域では、羊・ヤギ・ラクダなどの家畜とともに移動しながら生活する遊牧が行われる。
やや乾燥地
- オーストラリア、アルゼンチンの乾燥平原、アメリカ西部など
- 年降水量がやや少なく、穀物栽培には水が足りないが、草はある程度育つため、牛や羊などを広い土地で放し飼いにする牧畜(放牧)が発展。
熱帯(多雨・やせた土)
- アフリカ中部、アマゾン、東南アジアの一部など
- 雨が多すぎて土の栄養が流されやすく、定着農業には向かない。そこで、森林を焼いてタロイモ・キャッサバ・雑穀などを短期間育てる焼畑農業が行われる。
地中海性気候(夏乾燥)
ギリシャのアテネ(2025.3撮影)
- 南ヨーロッパ・チリ・カリフォルニアなど
- 夏に乾燥するため穀物には不向きだが、乾燥に強いオリーブ・ブドウ・柑橘類などの果樹がよく育つ。
傾斜地・高地
- アジアの山岳地帯、中南米のアンデスなど
- 斜面が多くて機械が入りにくく、耕地が狭い。そこで段々畑を作って水や土の流出を防ぎながら、ジャガイモや豆類などを栽培する。
都市周辺
- 園芸農業:野菜・果物・花などを新鮮なうちに出荷
- 近くに大量の消費者(都市住民)がいて、新鮮な野菜・果物・花を短時間で届けられる。
中緯度のヨーロッパなど
フランス パリ付近。(2023.9撮影)
- 気候は穏やかだが、土壌の肥沃度が極めて高いわけではないので、単一作物だと収入やリスクが不安定になる。そこで小麦・トウモロコシなどの畑作と、豚・牛などの家畜飼育を組み合わせた混合農業が発展。