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なぜ造船業は東アジアが強いのか?

モチオカ(望岡 慶)

世界で使われる多くの船は、いま東アジアで作られている。

なぜ造船業は、東アジアが強いのだろうか?

その理由は、「造船に必要な条件」から逆算すると見えてくる。

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造船業に必要なものとは?

造船は、ドックと呼ばれる大きな施設の中で行われる。ここでは、膨大な量の鉄鋼を使い、熟練の職人たちが手作業で加工・組み立てを行い、巨大な船を一隻ずつ作り上げていく。

完成した船は、ドックから海へと進水させる必要がある。そのため、ドックの立地には「十分な水深」「広いスペース」「穏やかな海面」が欠かせない。

長崎(2022.6撮影)

つまり、造船業が発展するためには、次のような条件がそろっている必要がある。

  • 作業や物資運搬に便利な、深くて広く、波が穏やかな港
  • 精密な作業に対応できる、熟練かつ比較的安価な労働力
  • 船の材料として不可欠な、大量の鉄鋼

なぜ東アジアが有利だったのか?

東アジアは、造船業の発展に必要な条件をいくつも満たしていた。

もちろん、良港に関しては欧米諸国にも存在する。ではなぜ、東アジアに軍配が上がったのか?

ポイントは、「豊富で安価な労働力」と「大量の鉄鋼」である。

安価で大量の労働力を確保しやすい

造船は、溶接や組み立てなど人手のかかる作業が多く、大量の労働力を必要とする産業である。

東アジアでは、比較的賃金の安い労働力が確保しやすく、結果としてコスト競争力を保ちやすかった。

実際、日本 → 韓国 → 中国というように、「より安い労働力」を求めて造船の中心地も移ってきた。

鉄鋼業が盛ん

造船に使われる「厚板」と呼ばれる鋼材は、非常に重く、輸送コストが高い。そのため、造船所の近くに鉄鋼業があることが理想的となる。

東アジアでは、鉄鋼業の発展を支える資源調達ルートと産業基盤が整っていた。

  • 鉄鉱石:オーストラリアなどから安定的に輸入
  • 石炭 :インドネシアなどから調達可能

こうした条件のもと、日本・韓国・中国はいずれも巨大な製鉄会社を育ててきた

日本八幡製鐵+富士製鐵 → 新日本製鐵 → 日本製鉄へと統合・再編され、世界屈指の高品質鉄鋼メーカーに。
韓国POSCO(ポスコ)は、1968年に朴正煕大統領の肝いりで設立。日本からの技術援助(日韓基本条約に基づく対日請求権資金)を受け、急速に成長。
中国宝武鋼鉄集団(Baowu Steel)の前身は1977年に設立された上海宝山鋼鉄総廠。ここも日本の製鉄技術の影響を強く受けて発展。

これらの国では、製鉄会社と造船会社の系列関係や長期取引が確立されており、安定した価格と納期で鋼材を調達できる体制が整っている。

このような産業の集積構造連携の仕組みが、東アジアの造船業を世界トップに押し上げた大きな要因となっている。

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下関にて(2022.3撮影)

ヨーロッパの造船業

ちなみに、かつてヨーロッパでは造船業が盛んだったが、現在は人件費や港湾インフラ、鉄鋼コストの面などにより、東アジアとの価格競争に勝てなくなっている

その結果、商船(コンテナ船・ばら積み船)などの大量生産型の船舶は、ほとんどが東アジアに発注されている。

一方で、ヨーロッパの造船業は完全に衰退したわけではなく、現在ではクルーズ船・軍艦・特殊船など、高付加価値なニッチ分野に特化している。

シドニーにて(2023.7撮影)

造船業をわかりやすく

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