日本の歴史の勉強をしていると、近代のところで「天皇機関説」が出てきます。
天皇機関説の内容だけでもわかりづらいのに、教科書にさらに「天皇機関説が、政党内閣制に理論的な根拠を与えた」と書いてあったりして(しかもそれがなんでなのかまでは書かれていなくて)、つまずきやすいポイントになっています。
そこで、本記事では
- 天皇機関説とは何か?
- 「天皇機関説が政党内閣制に理論的な根拠を与えた」の意味は?
について説明します!
この記事の信頼性
僕(もちお)は元社会科教員
ざっくりと学校の勉強の経歴(?)を書くと、こんな感じ。
- 小学生の時は偏差値40台だったけど、「学年で10位以内に入ったら携帯電話を買ってあげる」という親の甘い言葉で火がつき、猛勉強。その結果、
- 中学生では、塾に行かずに学年1位
- 高校では、学年で1ケタの順位をキープ
- 東大文科三類不合格
- 浪人(Oh…)
- 東大模試で文科三類1位
- 東大に合格
天皇機関説とは何か?
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天皇機関説とは、
天皇機関説
主権は国家にあり、天皇は国家の最高機関として憲法にしたがって権力行使するという考え方
です。
東京帝国大学の憲法学者、美濃部達吉さんが考えたとされる説(大日本国帝国憲法:明治憲法の解釈)です。
引用:朝日新聞DIGTAL
ちょっと余談ですが…
僕、美濃部達吉さんの顔を見ると、なぜかスターウォーズのオープニング音楽が流れ出すんですよ。
なんでだろう…。緑色のライトセーバー振り回してそうな感じだからかなあ…。
話を戻して、天皇機関説。先ほどの説明だけだと理解しづらいので、天皇機関説と対立する考え方を紹介します。
それが、天皇主権説です。
天皇主権説
主権は神聖不可侵の天皇にあり、天皇の権力行使に制限はないという考え方
天皇主権説では、「天皇は神が人間の形をして現れたもの。その神である天皇が主権を持っている。」と考えます。
つまり、天皇が全てをにぎっているということです。そして、天皇は神であるから、その天皇の権力行使に制限はない、と考えます。
国家の外に神である天皇がいて、その天皇(神)が国家を統治するってことです。
これが天皇主権説です。
一方、天皇機関説では、
- 「天皇が主権を持っている」のではなく、主権は国家にある
- 「天皇は神が人間の形をして現れたもの」ではなく、国家の最高機関だ
と考えます。
天皇が全てをにぎっているわけではなくて、天皇はあくまで国家の中の一つの機関(組織のようなもの)だ、と。
天皇はその国家にある機関の最高の立場ではあるけど、天皇がすべて行うのではない。天皇の権力には限界がある!あくまで主権は国家にあって、たくさんある国家機関が協力して統治するぞ、ってことです。
天皇主権説を主張する人たちと、天皇機関説を主張する人たちで対立があったのですが、最終的に天皇機関説が世の中に広まるようになりました。
天皇機関説の説明は以上で終わりです。
が、これだけだと、「なんで教科書に急に天皇機関説の話が出てきたんだろう」って疑問のまま終わってしまう人が多いです。
ですが、
この後の文章を読むことで、天皇機関説についての理解がさらに深まるはずですし、なぜ天皇機関説の話が中高の教科書に出てくるのか、の理由がわかるはずです。
「天皇機関説が政党内閣制に理論的な根拠を与えた」の意味は?
「天皇機関説が政党内閣制に理論的な根拠を与えた」の意味を理解するうえで、まず「政党内閣とは何か?」についての理解が必要です。
なので、政党内閣について説明します。
政党内閣とは?
政党内閣とは、
政党内閣
多くの大臣を、衆議院の多数派政党の者がしめる内閣
のことです。
つまり、衆議院の多数派政党(議席を多く持っている政党)の人が大臣を務めている内閣のことを政党内閣と言います。
これ、現代の日本ではあたりまえのことです。衆議院の多数派政党は自民党で、大臣はほとんどが自民党の人ですよね。
このように、現代の日本は政党内閣制なんです。なので歴史の勉強をしていると、逆に政党内閣じゃない内閣のイメージがつかみにくくて、結構混乱します。
そこで、政党内閣じゃない内閣について説明します。
政党内閣じゃない内閣って何かっていうと、明治時代の最初の方に登場した藩閥政府です(「藩閥内閣」って言うより、「藩閥政府」の方が一般的っぽいです)。
藩閥政府
多くの大臣を、薩長土肥出身の有力者がしめる内閣
大日本帝国憲法のもとでは、選挙で勝った政党から大臣を選ばなければいけないわけではなかったので、このような藩閥政府ってのがありえました。
国を改革する時には、国民の意思を聞くよりも、少数の人で国を引っ張っていったほうが良い場合もありますからね。
ですが、だんだんと「多くの大臣を、衆議院の多数派政党の者がしめる」政党内閣が成立するようになります。それが、大正デモクラシーの頃です。
で、教科書では、その大正デモクラシーの部分かその直前の部分で、美濃部達吉の天皇機関説の話が出てきます。
天皇機関説と政党内閣の関係
もう一度、天皇機関説について確認します。
天皇機関説
主権は国家にあり、天皇は国家の最高機関として憲法にしたがって権力行使するという考え方
では、「天皇機関説が政党内閣制に理論的な根拠を与えた」の意味は何なのか。
結論を先に言うと、
天皇機関説の考え方をすると、内閣(大臣たち)が、ある程度統一の考え方をもっておく必要が生じる
→ その統一した考え方をもつようにする仕組みが、政党内閣制
= だから、天皇機関説は政党内閣制をおし進める考え方だ!
です。くわしく解説します。
天皇機関説だと、天皇が神として、内閣などにしばられずに権力を行使するわけではありません。天皇は憲法にしたがいます。そして、その憲法には、
天皇は、内閣(大臣たち)の助言にもとづいて権力を行使する
ことが書かれています。
ちなみに、これは高校レベルになりますが、内閣は全員まとまって助言をするわけではなく、
大臣一人一人が天皇に助言をする(「国務大臣の単独輔弼」(たんどくほひつ)」
ことになっていました。
で、国家の最高機関の天皇に対して、大臣がそれぞれバラバラな(統一性のない)助言をしたら、天皇は困りますよね。
例えば、
- A大臣は「次はスプラッシュマウンテンに乗るべきだ!」
- B大臣は「次はイッツ・ア・スモールワールドに乗るべきだ!」
- C大臣は「次はポップコーンを食べるべきだ!」
って言ったら、天皇はどうすればいいかわからなくなります。絶叫系アトラクションにすればいいのか、ファミリー向けのアトラクションにすればいいのか、それとも食事をとればいいのか、わけわかんないですよね。
こうなったら困るので、天皇機関説という考え方をするのであれば、内閣(大臣たち)が、ある程度統一の考え方をもっておく必要が出てきます。
じゃあ、どうやったら内閣(大臣たち)が、ある程度統一の考え方をもつようになるかな…
って考えたんでしょう。
で、「そうか、政党内閣だ!」となったわけです。
政党って、そもそも「共通の政治的目的をもつ人によってつくられる組織」ですよね。
自民党だったら、(ちょっと現代の自民党はちがうかもしれませんが)自民党の人はある程度統一の考え方をしているわけです。
なので、選挙で多数の議席を勝ち取った政党の人が大臣になれば、その時点で大臣たち(内閣)は統一した考え方を持っていることになります。
そうすると、内閣(大臣たち)が、ある程度統一の考え方のもとで、天皇に統一した助言をすることができるようになり、国家の最高機関である天皇は意思決定しやすくなります。
もちろん、考え方の多少のズレはあるはず。例えば
- A大臣は「次はスプラッシュマウンテンに乗るべきだ!」
- B大臣は「次はビッグサンダーマウンテンに乗るべきだ!」
- C大臣は「次はスペースマウンテンに乗るべきだ!」
のように。でも、これくらいのズレがあったとしても、全体としては「絶叫系アトラクションに乗る」という考え方で統一されていますので、天皇は意思決定しやすいですよね。
以上のように、
天皇機関説の考え方をすると、内閣(大臣たち)が、ある程度統一の考え方をもっておく必要が生じる
→ その統一した考え方をもつようにする仕組みが、政党内閣制
= だから、天皇機関説は政党内閣制をおし進める考え方だ!
となります。
これが、「天皇機関説が政党内閣制に理論的な根拠を与えた」の意味です。
美濃部達吉は、内閣の連帯性を強めようとしたわけです。(ちなみに、藩閥政府だったら「ともに明治維新を成し遂げて国家を改革した」という連帯性が最初からあったはず。でも、1900年頃になると、明治維新を成し遂げた人たちもみんなどんどん死んでしまいました。だから、内閣の連帯性を強める新たな仕組みが必要だったんでしょうね。)
動画でも解説
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