社会保障制度ってわかりづらいですよね。
社会保障の内容は、理解しづらい「つまずきポイント」だということ。
社会保障と社会保険って何が違うの?とか、そういう疑問を抱きがち。
そこで本記事では、社会保障制度について説明をします!
この記事の執筆者
僕(もちお)は元社会科教員
ざっくりと学校の勉強の経歴(?)を書くと、こんな感じ。
- 小学生の時は偏差値40台だったけど、「学年で10位以内に入ったら携帯電話を買ってあげる」という親の言葉で火がつき、猛勉強。その結果、
- 中学生では、塾に行かずに学年1位
- 高校では、学年で1ケタの順位をキープ
- 東大文科三類不合格
- 浪人
- 東大模試で文科三類1位
- 東大に合格
社会保障とは
社会保障とは
個人で備えるのは難しいリスクに対して、国が中心になってみんなで備えようとする仕組み。
英語では「social security」と言います。
日本の社会保障制度は4つの柱からなる
図でまとめると、社会保障っていうのはこんな感じです。
社会保障制度は、リスクに備えるためのセーフティネットです。
もともとは、サーカスの綱渡りで落下したときでも安全を確保するために張られた網を意味していました。
社会保障制度は、日本国憲法第25条をもとにしています。
日本国憲法
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(後ほどくわしく書きます)
日本の社会保障制度は4つの柱からなります。
- 社会保険(しゃかい ほけん)
- 公的扶助(こうてき ふじょ)
- 公衆衛生(こうしゅう えいせい)
- 社会福祉(しゃかい ふくし)
社会保障についてまとめて考えるよりも、4つに分けて考える方が理解しやすいです。
社会保険
生活上の困窮や不安をもたらす疾病・老齢・障害・失業などに対して、一定の給付を行なう強制加入方式の公的保険制度のこと。
例えば、明日、いきなり病気になるかもしれないし、交通事故にあってケガしてしまうかもしれません。
そこで、社会保険です。
生活の中で起こりうるリスクに対して、みんなで少しずつ負担する(保険料を支払う)
↓
そのリスクにあたった場合に、みんなで貯めた分からお金をもらって、その人の負担を軽くしよう!
これが、社会保険です。
医療保険や年金保険、介護保険などに分類されます。
社会保険の仕組みがないと、いざという時にお金が足りなくなって、ものすごく苦しい生活(「健康で文化的な最低限度の生活」未満の生活)をしなきゃいけなくなるかもしれません。
公的扶助
社会保障制度の一つで、生活困窮者に対して最低限の生活を国が保障するしくみのこと。生活保護ともいう。
国民は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を持っています。
いろんな理由で、生活が苦しくならざるをえない人もいるわけです。
日本国憲法には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と書かれています。
そう考えると、全ての人に対して簡単に「自己責任だから仕方ない」って言ってしまうのは、どうかなって感じです。
そういう人たちを救おうとするのが、公的扶助です。
生活保護の申請が通れば、健康で文化的な最低限度の生活をするために不足している分のお金を国が支給することになります。
公衆衛生
疾病の予防、寿命の延長、肉体的および精神的能率の向上を目的として組織化された社会的しくみのこと。
でも、難しくありません。
「健康で文化的な最低限度の生活」をするうえで、例えば感染症のリスクがあります。
とはいえ、感染症のリスクに備えるために、水道の整備をしたり、食品の安全性をチェックしたり…っていうのを個人で行うのって大変ですよね。
そこで、「そういうリスクにみんなで備えよう」と考えました。
これが公衆衛生です。
具体的には、各地の保健所が、各地に設置されている保健所が、衛生思想の普及、栄養改善、住環境・飲食物の衛生、母性及び乳幼児の衛生、結核などの感染症予防などを行なっている。
社会福祉
児童・高齢者・心身障害者・母子家庭・寡婦など、生活不安をかかえている社会的弱者が自立し、能力を発揮できるように、国や地方公共団体などが行なう援助・育成などの社会福祉政策のこと。
※寡婦(かふ)っていうのは、「①夫が亡くなって、再婚しないでいる女性」「②夫と離婚し、再婚しないでいる女性」のことです。
世の中には、ハンディキャップをもっていて、自分の力だけでは「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことができない人がいます。
例えば高齢者は体を動かすことができなくて、自分一人では生活できないかもしれません。
障害を抱えている人は、支援がないと自立した生活ができない場合があります。
母子家庭のシングルマザーが、一人で生活費を稼ぎながら子育てもするのは大変です。
(※児童福祉法では、「満18歳に満たないもの」を児童としています)
児童は、基本的には親(保護者)のもとで生活することになります。
その時に、児童が健全に育成されないとマズイので、社会福祉の中に、児童福祉というものがあります。
社会保障の財源
社会保障の財源は、こんな感じ。
- 社会保険:社会保険料+税金
- 公的扶助:税金
- 公衆衛生:税金
- 社会福祉:税金
社会保障制度の問題点
社会保障制度の問題点を2つ説明します。
1つ目が、「財源が足りないわ!」っていう問題です。
傾向として、高齢になればなるほど社会保障制度を利用する機会が増えます。(医療・年金など)
高齢者が少なければ、「財源が足りないわ!」ってことにはなりづらいですが、日本はご存知の通り、高齢化社会。
なので、日本では
- すでに社会保障制度(特に社会保険・社会福祉)に費やすお金が増えているし
- (このままいけば)今後もっと増えていくことが確定している
のです。
しかも。
その財源は「社会保険料 & 税金」。
社会保険料を負担するのは、バリバリ働いている世代です。
その「バリバリ働いている世代」は、少子化が進んでいる中、だんだんと減ってしまっています。
「じゃあ税金を増やせばいいじゃないか!」ってことなんですけど、
消費税を数%上げるのにも大批判が起きるのが日本なので、これまた大変なんです。
というわけで、「財源が足りないわ!」ってマジで困っているのが日本です。
なんとかしないといけないんです。
2つ目の問題が、生活保護に関する問題です。
生活保護の申請が通れば、健康で文化的な最低限度の生活をするために不足している分のお金を国が支給することになるわけですが、
具体的にどんな生活が「健康で文化的な最低限度の生活」なのか?って、難しいですよね。
って、考え始めるとキリがないんです。
実際、1957年から朝日訴訟という有名な訴訟(裁判)が行われることになりました。
(教科書に載っています)
また、生活保護の申請をしてきた人すべてに生活保護を認めるわけにはいかない、っていう事情もあります。
申請をする人の中には、自分の努力で「健康で文化的な最低限度の生活」をすることのできる人も混じっているんです。
例えば、「働く場所がない、って言ってるけど、スーパーのレジ打ちのバイトをすればいいでしょ!募集しているじゃん!」っていうようなことがあるんです。
ということもあって(さらに、社会保障の財源が不足していることもあって)、生活保護の申請に対して結構厳しいチェックがなされるようです。
その結果、もしかすると「本当に生活保護が必要な人」が申請に通らないってことがあるかもしれませんし、「どうせ申請しても拒否される」って思い込んで「必要な人」が申請しないってことが起こり得るのです。
さらに、生活保護への蔑視の雰囲気もあります。
「生活保護を受けるなんて、恥ずかしい」とか、そういう感情です。
国民は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を持っているので、実際には生活保護の利用は全然問題ありません。
ですが、感情的に「生活保護はイヤ」「生活保護を受けている人はダメな人だ」って思ってしまう人が少なくないのです。
そして、例えばコロナの影響で経済的に打撃を受けた人が「生活が苦しくなった!このままじゃ死んじゃう!国がなんとかしろ!」って言っちゃったりします。
憲法的には「『健康で文化的な最低限度の生活』以上の生活ができているなら、まだ社会保障(セーフティネット)の出番じゃないよね」ってことになっています。
ところが、多くの人は「生活保護はあり得ない!」って言って国の制度を利用しようとはせず、
一方で「『今の生活』が維持できないのはイヤだ!死んじゃう!国がなんとかしろ!」ってプラスアルファの支援を求めるのです。
このネジれた感じ、生活保護への蔑視の雰囲気と全く無関係ではないと思っています。
社会保障の歴史
1601年 エリザベス救貧法
が最初だとされています。
これは、貧困者を国王が救済するものです。
公的扶助ですね。
19世紀(資本主義の初期)には、貧困は「その人のなまけ」や「その人のムダ遣い」などの自己責任であると考えられていました。
しかし、資本主義の発達とともに、
- 経済的不平等(豊かになる人と、貧しくなる人の差が激しい)
- 失業
- 労働災害(仕事中のケガ。鉱山事故が多い)
が増えて、「自己責任じゃなくて、社会全体で解決しなくてはいけないことなんじゃないのか!?」と、多くの人が考えるようになっていきました。
そんななか、このような出来事が起きます。
1883年 ドイツのビスマルクが世界最初の社会保険制度を始めた
ビスマルクの社会保険制度は、労働者限定の社会保険でしたが、当時は画期的でした(=新しくてすごかった)。
その後、イギリスやアメリカなどにも社会保障の考え方が広がることになります。
1942年、第二次世界大戦中にイギリスで「ベバリッジ報告」が発表される
全国民を対象として、最低限度の生活を保障する社会保障制度です。
スローガンは「ゆりかごから墓場まで」です。
この発表をもとに、戦後、社会保障制度が実施されました。
日本の社会保障制度の歴史
日本の社会保障制度の歴史で、本当に重要なことを4つだけ書きます。
- 日本国憲法に生存権(第25条)について書かれた
- 1946年 生活保護法
- 1958年 国民健康保険法(この法律をもとに1961年に国民皆保険が実現)
- 1959年 国民年金法(この法律をもとに1961年に国民皆年金が実現)
まとめ
動画でも解説
参考文献
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