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インドの未来と課題:なぜ「格差の是正は難しそう」なのか?

モチオカ(望岡 慶)

経済成長著しいインド。

しかし、街を歩けば道端で毛布にくるまって眠る人々の姿が目に入る。中にはハエがたかっていて、すでに息をしていないのでは……と思わされる光景もある。

オールドデリーの様子(2024.12撮影)

インドは深刻な課題を抱えている。拡大する経済格差をどう是正していくのか。

ところがインドの場合、経済格差を含むあらゆる「格差の是正」は、一筋縄ではいかないだろうことが予想される。

どういうことか。この記事では、インドが抱える課題を説明したい。

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インドの課題

経済格差と貧困

インドの経済成長の恩恵を受けているのは一部の層に限られる。

農村部では、十分な収入を得られない農民が生活を苦にして、都市部へ出稼ぎに出ている。都市ではスラムが拡大し、路上生活者も増えている。

デリーにて(2024.12撮影)

都市部の過密と環境問題

農村からの人口流入と人口増加を背景に、都市の過密化が進行し、交通渋滞や大気汚染が深刻となっている。

特に影響を受けるのは路上生活をする貧困層である。彼らは医療へのアクセスも困難であり、命が脅かされている。

インドの首都デリーの光景(2024.12撮影)
ジャーマー・マスジドのミナレット(尖塔)からの眺め(2024.12撮影)

根深い女性差別

女性の教育・就労は進展しつつあるが、依然として家庭内暴力や性暴力の事件は後を絶たない。

都市と農村で格差が大きく、女性の社会進出を阻む壁はまだ高いと言える。

関連:→インドの経済成長を阻む女性の安全問題(NHK国際報道)

デリーにて(2024.12撮影)

なぜインドの課題は「複雑」なのか?

こうした課題は他の新興国にも共通するものである。

しかし、インド社会の構成員が共有する独特な価値観が、課題解決を極めて困難にしている。

ヒンドゥー教の国

インドの人口の8割以上が信仰するヒンドゥー教は、「神の前の平等」を説くキリスト教やイスラーム教とは異なる解釈を持っている。

ヒンドゥー教には、

  • 人々は4つのヴァルナ(家系・血統)に分かれる
  • 前世の行い(カルマ)が現在の立場を決める

というの思想がある。この思想は、社会の格差をむしろ正当化してはいないだろうか?

また、ヒンドゥー教の経典『マヌ法典』は、女性は男性に依存すべき存在であり、女性は家庭内での役割を果たすことが最も重要だと説く。

現代では教育の普及や都市化により価値観の変化も進んできているが、ヒンドゥー教の教えが格差をむしろ当然視してきた側面は否めない。

このような前提を持つ社会で、人々が「格差の是正」に合意することはあるのだろうか?

どの国でも社会問題の解決には合意形成が必要だが、インド社会はそもそも格差を「社会問題」とは認識しないかもしれない。

世界最大の民主主義国

しかもインドは13億人を超える人口を抱える「世界最大の民主主義国」である。

少数のリーダー、もしくは一人の独裁者ではなく、国民一人ひとりの意思が社会を形作る。

「格差の是正」という、ヒンドゥー教の価値観の否定とも言える動きを、過半数の人が支持する・・・

・・・果たしてそんな未来が訪れるのだろうか?

参考:『インド―グローバル・サウスの超大国』

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