世界の工業地域:主な工業の立地と、その理由をわかりやすく
前回の記事では、
人々は「できるだけ楽をして」「できるだけコストをかけずに」モノを作り、届けようとする──その工夫の積み重ねが工業の立地である、という話をした。
では実際に、世界のどこで、どんな理由で、どの工業が発達しているのだろうか?
本記事では、地球規模で見た主要な工業の立地と、その理由を説明する。
食品

食品工業は、人間の基本的な「食べたい」という欲求に応える産業であり、すべての国・地域で需要がある。また、製品が日持ちしにくい場合も多い。
そのため、世界中の都市周辺などの消費地に近い場所に立地しやすい傾向がある。
ただし、加工工程が比較的単純で、技術的な差別化が難しいため、1製品あたりの付加価値額はそれほど高くない。
主な立地地域:
- 都市周辺(世界中)
- 加工食品が盛んな先進国(アメリカ、日本、ドイツなど)
- 農産物の加工拠点(東南アジア、南米など)
繊維・衣類

繊維・衣類工業は、作業が比較的単純である一方、機械化が難しく人手を多く必要とするという特徴がある。
そのため、人件費の安い地域に立地しやすい。
製品の単価が低く、ブランド力がなければ価格競争に巻き込まれやすいため、付加価値額は低め。
このため、先進国では生産拠点としての魅力が薄れ、生産は海外へ移転し、先進国ではデザインや販売に特化する形に移行している。
主な立地地域:
- 生産:バングラデシュ、ベトナム、インド、パキスタン、中国
- ブランド・販売:アメリカ、フランス、イタリア、日本
化学
化学工業は、原油や天然ガスなどの資源を原料とする大規模な設備産業である。
そのため、港湾部や原料供給地の近くに立地することが多い。
基礎化学品は資源への依存度が高く、付加価値額は中程度だが、医薬品や高機能素材など高度な化学製品になると非常に高い付加価値が生まれる。
このため、途上国では石油化学など資源型の生産が中心で、先進国では知識や技術を活かした高付加価値製品が主力となっている。
※基礎化学品:さまざまな化学製品や工業製品の原材料のこと。石油化学製品(エチレン、プロピレン、ベンゼン)や、無機化学製品(硫酸、塩酸、ソーダ灰)、肥料の原料(尿素、硝酸アンモニウム)など。
※高機能素材:特別な性質(軽い・強い・熱に強い・電気を通す・腐食しない など)を持ち、高度な技術によって作られた素材のこと。高性能プラスチック、炭素繊維、シリコンウエハーなど。
主な立地地域:
- 資源型生産:サウジアラビア、カタール、中国など
- 高機能化学製品:ドイツ、日本、アメリカ、韓国
鉄鋼・金属

鉄鋼・金属工業は、鉄鉱石や石炭など重くかさばる原材料を大量に使う。
そのため、港や資源地の近くに立地しやすい。
製造には大きな設備が必要で、かつては「重工業の代表格」だったが、近年は価格競争が激しく、1製品あたりの付加価値額は低め。
そのため、環境対策コストの高い先進国では縮小傾向にあり、中国やインドなどインフラ整備が進む新興国で生産が拡大している。
主な立地地域:
- 大量生産:中国、インド、ブラジル、ロシア
- 高品質鋼材:日本、韓国、ドイツ
電気機械

電気機械工業(電子部品や家電など)は、精密さが求められ、部品点数が多く、関連企業との連携が重要である。
そのため、企業の集積地や空港・高速道路の近くといった、部品のやりとりや輸送がスムーズな場所に立地する傾向がある。
製品の技術力やブランド力によって価格が大きく変わるため、付加価値額は比較的高く、先進国にとって重要な産業である。ただし、単純な組み立て工程は人件費の安い国に委託されることが多く、生産工程は国際的に分業されている。
主な立地地域:
- 精密部品・技術開発:日本(長野・静岡)、台湾(新竹)、韓国、ドイツ、アメリカ
- 組み立て拠点:中国、ベトナム、タイ、マレーシア
輸送機械

輸送機械工業(自動車や航空機など)は、数万点にも及ぶ部品と高度な設計・開発が必要な産業である。
そのため、関連企業が集まる地域に立地しやすい。完成品は大きくて輸送が大変なため、消費地や輸出港に近いことも重要である。
研究開発やブランド力、品質保証体制などが求められるため、付加価値額は非常に高く、先進国における中核産業となっている。途上国でも一部組み立てが行われているが、設計・開発は依然として先進国が主導している。
近年ではEV化などによって産業構造が大きく変化しつつある。
主な立地地域:
- 自動車:アメリカ(デトロイト)、日本(愛知)、ドイツ(ミュンヘン周辺)
- 組み立て:中国、タイ、メキシコ、インドネシア
- 航空機:アメリカ(ボーイング)、フランス(エアバス)