日本

物価高対策として「消費税を下げる」しかない理由。日本はなぜこんなにも詰んでいるのか

モチオカ(望岡 慶)

消費税減税の議論は、しばしば選挙対策のためのバラマキとして批判される。

しかし、実際に生活に苦しむ人々、特に賃上げの恩恵を受けられない高齢者などの実情を見ると、減税は必ずしも「愚策」と言い切れない側面がある。

この議論を深めるためには、まず「そもそもなぜ税が必要なのか」という本質に立ち返らなければならない。

税制のジレンマ

税とは、社会というグループの中で「みんなで支え合って暮らす」ための会費である。本来、「みんなから」「公平に」集めるのが理想だ。

しかし、税の集め方には二つの主要な方法があるが、それぞれに欠点がある。

直接税(所得税など)

個人の事情(豊かさや苦しさ)に合わせて税率を変えられる利点があるが、1人ひとりから徴収するのは手間がかかり、所得の「ちょろまかし」などの捕捉不足(クロヨン問題など)が起きやすい。

間接税(消費税など)

お店がまとめて納めるため取り損ねが少なく、安定した財源になるが、所得に関わらず一律にかかるため、低所得者ほど負担感が重くなる「逆進性」という弱点を持つ。

物価高と「悪い賃上げ」

現在の物価高の背景には、円安による輸入コストの上昇や、政府の要請に応じた「賃上げ」がある。

ここで問題なのは、生産性の向上による「良い賃上げ」ではなく、商品の値上げ分を給料に回す「価格転嫁による悪い賃上げ」が起きている点である。この場合、賃上げの原資は結局、消費者が負担することになる。

高齢者はインフレに弱い

この物価高で最も打撃を受けているのが高齢者である。

恩恵の不在

現役世代のような賃上げの恩恵を受けられない。

実質的な貧困化

年金は物価上昇に完全には連動しないため、実質的な購買力が低下する。

資産価値の下落

日本の高齢者は資産の多くを「預貯金(現金)」で持っているが、インフレ下では現金の価値そのものが目減りする。

高齢者の中には極めて豊かな層もいれば、40年以上の格差の蓄積により非常に貧しい層もおり、一括りに「高齢者は金持ちだ」と切り捨てることはできない。

日本の根本的な課題

本当に困っている人を助けるには、その人の資産や状況に応じた直接的なサポート(お金の給付など)が理想である。しかし、日本政府は個人の銀行口座や生活状況を正確に把握するシステムを構築できていない。

そのため、「誰がどれくらい困っているか」を判別できず、年齢による一律の区切りや、消費税の一律減税という「ターゲットの粗い」方法でしか対応できないのが現状である。

なぜ2026年になっても正確な把握システムができていないのか。そこには戦争の記憶が影を落としている。

  • 政府への不信感: かつて政府が国民を管理し戦争へ突き進んだことへの反省から、個人の資産や情報を把握されることへの強烈な拒絶反応(特に「左」と呼ばれる勢力など)がある。
  • 預貯金信仰: 戦中から戦後にかけて、国が復興や戦費のために「貯蓄」を推奨・神格化した結果、日本人はインフレに弱い「預貯金偏重」の資産構造を持つことになった。

消費税減税は「時間稼ぎ」に過ぎない

消費税を0にする、あるいは減税することは、さらなるインフレを招くリスクがあり、論理的な解決策ではない。

しかし、システムが不十分で「今まさに苦しんでいる人」を直接救えない現状において、減税は避けることのできない「時間稼ぎ」としての意味を持つ。

日本は今、戦後から続く「現金信仰」と「政府への管理拒絶」という負の遺産のツケを、高齢化とインフレが重なる最悪のタイミングで支払わされている。この時間稼ぎの間に、いかにして「個人の事情に合わせた柔軟な徴税とサポート」ができるシステムへ移行できるかが、日本が抱える根本的な課題である。

参考文献

野口悠紀雄(2025). 『戦後日本経済史』. 東洋経済新報社.

野口悠紀雄(2015). 『戦後経済史―私たちはどこで間違えたのか』. 東洋経済新報社.

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