なぜ穀物メジャーはあるのに、野菜メジャーや工業製品メジャーはないの?
地理の教科書を読んでいて、ふと疑問に思った。
一体なぜ、穀物メジャーはあるのに、野菜メジャーや工業製品メジャーはないのか?
穀物メジャーとは
トウモロコシ、小麦といった穀物の国際的な流通(世界における売り買い)を支配している巨大な会社。
世界中で作られるトウモロコシや小麦の大部分を、この大企業(穀物メジャー)が買い取って、世界中に売っている。

- 特に影響力の強い上位4社は、それぞれの頭文字をとって「ABCD」と呼ばれる。
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- A:アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド (ADM)(アメリカ)
- B:ブンゲ (Bunge)(アメリカ)
- C:カーギル (Cargill)(アメリカ、世界最大手)
- D:ルイ・ドレフュス (Louis Dreyfus)(オランダ/フランス)
彼らが動かないと、世界中のパンや肉(←家畜のエサとしてトウモロコシが必要)などが作れなくなるほど大きな力を持っている。日本も、輸入しているトウモロコシや大豆の多くをこの「穀物メジャー」から買っている。

なぜ「野菜メジャー」や「工業製品メジャー」はないのか?
一言で言うと、穀物と野菜、工業製品とでは、流通のあり方が違うから。
商品の流通のあり方が違う
商品の流通構造を決めるカギは、商品の「保存性」と「差別化されているか(=他のものと混ぜられるか)」の2つ。
- 保存性(時間を超えて扱えるか)
- 差別化の程度(他の商品と混ぜられるか/代替可能か)
この2つの軸で分類すると、以下のようになる。
| 商品区分 | 保存性 | 差別化 |
|---|---|---|
| 穀物 | 高 | 低(混ぜられる) |
| 生鮮食品 | 低 | 中(産地差あり) |
| 工業製品 | 高 | 高(混ぜられない) |
穀物

穀物は保存性high、差別化low
穀物は、
- 長期保存が可能
- 品質がほぼ均一で「混ぜても問題ない」
ため、世界中の生産物を集めて「ひとまとめにして売る」ことができる。
だからこそ、企業は巨大化する方が合理的になる(=大きな倉庫を持ち、流通システムと情報網を充実させる方が有利になる)。
その結果、資本力のある大企業(メジャー)が流通を支配しやすい。
- 日本の米では、農協(JA)がメジャーのような立ち位置にいる
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ただし、国際的な穀物メジャーが「安く買って高く売る商社」であるのに対し、JAは「組合員の利益を守り、共同で販売する組織」という建前がある。
生鮮食品(野菜・果物・畜産物)

生鮮食品は保存性low、差別化middle
生鮮食品は差別化の余地はあるが(=ブランド化は可能だが)、保存性が低く、取引のスピードが最優先される。流通を担う大企業が各地から生鮮食品を集めて(=混ぜて)大きな倉庫に保管する、ということができない。収穫したらすぐに売買したい。
また、生産計画を細かく立てられる工業製品とは異なり、生鮮食品は天候に左右されるため、「今日、どのくらい良いものが、どのくらい届くか」がわかりにくい。生鮮食品は計画的に流通させるのが難しい。
ゆえに、様々な産地や農家から集めて見比べ、その場のアドリブで価格を決めて売買されるマーケット(=中央卸売市場、地方卸売市場)が発達する。

工業製品

工業製品は保存性high、差別化high
工業製品は保存性こそ高いものの、
- ブランドや設計が固有
- 他社製品と混ぜて売ることができない
したがって、集めてすぐに売り捌くマーケット(=中央卸売市場、地方卸売市場)は不要だし、同種のものを集めて保管し売りさばくメジャーも不要になる。
また、工業製品は売って終わりではなく、故障時の修理や部品供給という「アフターサービス」が不可欠。他社の製品と混ぜて流通させてしまうと、責任の所在がわからなくなる。
だからこそ、各メーカーが自社の流通ルート・販売代理店を構築する形になる。
まとめ
商品の「保存性」と「差別化の度合い」が、流通の形を決める。
- 保存がきき、混ぜられる穀物は流通企業を巨大化に向かわせ(=穀物メジャー)、
- 保存がきかず即時に売買する必要がある生鮮品では市場取引が発達し、
- 保存できるが製品ごとに固有性が高い工業製品では、メーカー主導の個別流通が合理的になった。



