ヨーロッパ

ヨーロッパ連合(EU)の問題点をわかりやすく:なぜ格差が拡大する?

モチオカ(望岡 慶)

「平和」を目指す取り組みであるヨーロッパ統合(特にEU)が持つ問題点・副作用について説明する。

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EUの理念が、新たな問題を生む

欧州中央銀行にて(2025.6撮影)

二度の世界大戦を経験したヨーロッパでは、「もう二度と戦争は繰り返さない」という深い反省から、国どうしが手を取り合う「地域統合」の動きが始まった。

その代表的な枠組みが、現在のヨーロッパ連合(EU)である。

EUの基本理念は、「ヒト・モノ・カネが自由に行き来できる社会をつくること」。背景にあるのは、「経済的に深く結びついた国どうしは、戦争しにくくなるはずだ」という仮説である。

しかし、「域内でのヒト・モノ・カネの移動を自由にする」という取り組みは、別の新たな問題を生む。

参考:ヨーロッパ統合の目的をわかりやすく:なぜベネルクスから始まった?

「モノの自由な移動」がもたらす影響

EUでは、「モノ(商品)」が国境を越えて自由に行き来できる。

これは便利なように見えるが、地域によっては産業が壊滅するリスクもある。

オランダ・ロッテルダムにて(2025.6撮影)

特定の地域の農業が壊滅するリスク

EUでは関税が撤廃され、どの国の商品も自由に他国に売ることができるようになった。

そのため、農産物の価格競争が激化し、地理的に不利な地域の農業が立ちゆかなくなる恐れがある

たとえば、

  • フランス:広くて肥沃な土地がある → 大規模・効率的な農業 → 強い
  • アイルランドやギリシャ:山がち・小規模・輸送が不利 → 弱い

農業は、土地・気候・地形など、努力ではどうにもならない要素に左右されやすい。そのため、自由競争をそのまま適用すると、「勝てる地域」ばかりが残り、「不利な地域」の農業が壊滅してしまう。

こうした事態を防ぐためにEUでは「共通農業政策(CAP)」をつくり、弱い地域の農業を支援している。

参考:ヨーロッパの農業をわかりやすく:地域差が大きいからこそ・・・

参考:共通農業政策をわかりやすく:なぜ必要なのか?

特定の地域の工業が壊滅するリスク

同じように、工業でも自由な競争によって、強い地域だけが生き残るという問題が起きうる。

ただ、農業と違って、工業は土地や気候にあまり左右されない。交通インフラや教育水準、技術力など、努力次第で競争力を高められる面が大きい。そのため、農業のような強力な保護政策は取られていない。

結果として、ドイツなどのもともと工業に強みを持つ国がますます優位になっており、「ドイツ一強」状態につながっている。

ドイツ技術博物館にて(2025.6撮影)

参考:ヨーロッパの工業をわかりやすく:ドイツが強すぎることの何が問題?

「カネの自由な移動」がもたらす影響

EUでは「共通通貨ユーロ」を使い、お金のやり取りが自由にできる仕組みをつくっている。

でも、これにはいくつかの問題もある。

欧州中央銀行にて(2025.6撮影)

経済的に強い国に有利

ユーロの価値(為替レート)は、ユーロを使っている国全体の平均的な経済力をもとに決まる。

そのため、

  • ドイツのような経済が強くて輸出が多い国は、本来の通貨(マルク)よりも「安い通貨」で輸出できる → 輸出に有利
  • ギリシャのような経済が弱い国は、本来の通貨(ドラクマ)よりも「高い通貨」を使うことになる → 輸出に不利

つまり、経済が強い国はさらに得をし、弱い国はますます苦しくなるという構造になっている。

各国が自由に金融政策を取れない

普通の国なら、景気が悪くなったときに、

  • お金をたくさん刷る(通貨安にして輸出を後押し)
  • 金利を下げて景気を刺激する

といった金融政策ができる。

でも、ユーロを使っている国はそれができない。

通貨や金利は欧州中央銀行(ECB)が管理しているので、自分の国だけのための対策が取れないからである。

欧州中央銀行 @フランクフルト(2025.6撮影)

一つの国の危機が全体に広がる

同じ通貨を使っているため、一国の経済危機が他の国に広がるリスクがある。

たとえば2009年、ギリシャで財政が大きく崩れたとき、ユーロ全体の信用が下がり、他の国も巻き込まれた

つまり、「困っている国を放っておくと、自分たちも困る」ので、EU全体で支え合う必要が出てくる

ギリシャ・アテネ(2025.6撮影)

参考:ユーロ導入で手に入るもの、失うもの【メリット・デメリット・問題点】

「ヒトの自由な移動」がもたらす影響

EUでは、人が国境を越えて自由に移動し、働ける仕組みが整っている。

これは経済の活性化には役立つが、理想と現実のギャップもある。

アテネ国際空港(2025.6撮影)

人が一部の国に集中してしまう

ヒトの移動が自由になれば、生活が豊かで仕事がある国に人が集まるのは自然な流れ。

  • ドイツやフランスなどには、東欧や南欧から多くの労働者が集まる
  • 働き手が増えるのは良いことだが、社会保障や住環境、雇用競争の圧力が高まる

逆に、人が流出する国では、

  • 働き盛りの若者が減り、経済の将来に不安が出てくる

つまり、「ヒトの自由な移動」は、人手のバランスが崩れる原因にもなる

「どこの誰がどこに住むか」が見えにくくなる

EUでは、一度どこかの国に入れば他の国にも移動できる(シェンゲン協定)。このしくみは便利だが、移民や難民が大量に流入したときに混乱を招く。

  • たとえば、中東やアフリカからイタリアやギリシャに上陸した人が、実際にはフランスやドイツに向かっていく
  • でも、誰がどこに住むのかを、各国がコントロールするのは難しい

さらに、

  • 宗教や文化・生活習慣の違い → 摩擦や不安、社会の分断
  • 一部のテロ事件 → 「治安が悪化するのでは?」という不信感を広げる

移民を受け入れるべきかという議論は、EUの理念(自由・寛容)と、現実の安全や社会の統合の問題との間で、いまも揺れている。

ドイツ・フランクフルトにて(2025.6撮影)
Q
難民受け入れを「断りづらい」ヨーロッパの事情

特に中東での紛争・難民の急増(2015年前後)をきっかけに、こうした懸念は一気に表面化した。

  • 地理的にアフリカ・中東に近く、移動の「玄関口」になりやすい
  • 経済的に豊かで、庇護を求める人々にとって魅力的
  • かつての植民地支配に対する歴史的反省もあり、「見て見ぬふり」がしにくい空気もある

このように、ヨーロッパは「受け入れるべき理由」をいくつも抱えている一方で、国内の不満や分断も高まるという、ジレンマを抱えている。

参考:トルコ イスタンブールで感じたシリア難民の影響

まとめ:EU共通市場の光と影

EUの共通市場は、「モノ・ヒト・カネの自由な移動」を通じて経済を活性化させる仕組みだが、その本質には「強い者がさらに強くなる」という性質がある。

たとえば

  • 工業力に優れるドイツ
  • 手厚い農業補助を活用するフランス
  • 港湾を活かして物流の中心を担うオランダ

これらの国々は共通市場の恩恵を大きく受け、さらなる富を得てきた。

一方で、農業・工業の両面で不利な条件を抱える南ヨーロッパや東ヨーロッパの国々は、競争の中で立場を弱め、格差が広がる構図が生まれている。

ただ、経済的に強い国々であっても安心ではない。移民・難民の集中や社会統合の難しさといった、新たな課題にも直面している。

ドイツ・ベルリンにて(2025.6撮影)

「経済的に深く結びついた国どうしは、戦争しにくくなるはずだ」という仮説のもと、ヨーロッパの地域統合は発展を続けてきた。

しかし、現状の仕組みが「正解」とは言えない。

これからも、よりよい形をめざして、工夫と改善を続けていくことが必要である。

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