ヨーロッパの農業をわかりやすく:地域差が大きいからこそ・・・
ヨーロッパ農業の全体像を、気候ごとにざっくり整理しながら見ていく。
ヨーロッパの農業は多様

ヨーロッパの気候は多様。気候でざっくり4つに分けるとわかりやすい。
西ヨーロッパ:混合農業
年間を通じて温暖・湿潤な西岸海洋性気候(Cfb)が広がる地域。農業に向いている。
なかでも「フランス〜ドイツ西部」周辺は、ヨーロッパの中でも特に自然条件に恵まれている。

農地は昔から人々に使われ続け、代々の相続で分割されてきたため、規模が比較的小さい限られた土地からできるだけ多くの収穫や利益を得るために、土地をムダなく使う混合農業が発達した。
近年では、より収益性の高い酪農や園芸農業などの「特化型農業」が広がり、農業の大規模化・機械化も進んでいる。
東ヨーロッパ:混合農業
大陸性の気候で、冬は寒く、夏はやや温暖な冷帯湿潤気候(Df)が広がる地域。農業にはやや不利。
混合農業が行われているが、小麦ではなく、より寒さに強い大麦やライ麦の栽培が行われる。

北ヨーロッパ:酪農
冬は寒く、夏はやや温暖な冷帯湿潤気候(Df)が広がる地域。緯度が高いため、冬は寒くて日照時間が短い。また、かつて大陸氷河の影響を受けたやせ地が広がる。基本的に農業には向かない。
やせ地でもできる酪農が行われている。
※デンマークは北ヨーロッパだが、農業が盛ん。国土の形状的に偏西風の影響を受けやすくて比較的温暖なのと、ロームという肥沃な土壌が分布しているからとのこと。(完全に理解できてはいないので、もっと勉強します)


南ヨーロッパ:地中海式農業
冬は雨がそれなりに降るが、気温が高くなり日照時間が増え、農作物の生育に向いている夏に雨が少なく乾燥する地中海性気候(Cs)が広がる地域。。特殊な農作物じゃないと育ちにくい。
夏の乾燥に強いオリーブやコルクガシ、柑橘類、ブドウなどの栽培を行う地中海式農業が行われている。




生産性の地域差も大きい
西ヨーロッパ:強い
フランス・ドイツ西部・デンマークなどでは、農業の大規模化・機械化・企業化が進んでいる。
- 戦後の経済復興のなかで、農業にも資本が流れ込んだ
- 農業者の教育レベルも高く、経営意識が強い
- 農地の自由売買が昔から可能で、集約・大規模化が進んだ
- 1950年代から「共通農業政策(CAP)」による補助金の恩恵を受け、競争力をつけた
東ヨーロッパ:イマイチ
東ヨーロッパでは小規模経営が大半で、生産性も低め。
- なぜ東ヨーロッパは小規模経営が多く、生産性が低い?
-
① 土地の自由売買の歴史が浅い
- 社会主義時代は農地が国有または集団農場だったため、個人の売買は不可能だった
- 1990年代の市場経済移行でようやく個人所有が可能になった
- しかし、返還された農地は小さく細かく分割されており、集約が困難
- 投資資本やノウハウも乏しく、急速な大規模化は難しい
② 農業以外に仕事がない
- 社会主義時代の国営工場や重工業が廃業し、地方に産業が残らなかった
- 農地を手放しても、地元に次の仕事がない
- 西ヨーロッパのように「農業をやめて別の仕事へ」が難しい
③ 若者が西側に出てしまう
- EU域内の自由移動により、若年層が出稼ぎに西側へ移動
- 地元に残るのは高齢者中心の農家 → 投資も集約化も進みにくい
北ヨーロッパ:イマイチ
南ヨーロッパ:イマイチ
南ヨーロッパは、乾燥する夏や傾斜地の多さから、穀物などを大規模に栽培するには不利。結果として、機械化や収量の向上に限界がある。
だから共通農業政策が必要
このように、ヨーロッパは農業が多様で、地域ごとの生産性にも差がある。
フランスやドイツ西部、デンマークのように自然条件に恵まれ、大規模化と機械化が進んだ地域もあれば、東ヨーロッパや南ヨーロッパのように、自然条件や歴史的条件が理由で、小規模で生産性の低い農業が続いている地域もある。
どうしても農家の努力だけでは埋められない差がある。
だからこそ、ヨーロッパの地域統合の枠組み、つまり「共通市場」をつくって農産物の移動を自由にするならば、そのルールの下で苦しい思いをする人を守る仕組みが必要になる。
それが、EUの「共通農業政策(CAP)」である。