ヨーロッパ

共通農業政策をわかりやすく:なぜ必要なのか?

モチオカ(望岡 慶)

EUの共通農業政策(CAP)は、一言でいえば「経済統合が引き起こす副作用を抑えるための制度」。つまり、「地域統合のルールのもとで苦しむ人たちを守るための仕組み」が共通農業政策である。

この点が、共通農業政策を理解する上での出発点となる。

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共通農業政策が必要な理由

EUの単一市場により、「弱い地域」の農業はますます不利に

EUでは、域内の関税が撤廃され、ヒト・モノ・カネが自由に移動できる「単一市場」が作られた。その結果、農産物も国境を越えて自由に売られるようになる。

欧州中央銀行にて(2025.6撮影)

しかし、ここで問題が生じる。

自由競争のもとでは、どうしても勝てる地域だけが生き残り、他は淘汰されるということになりかねない。

特に農業は、気候・地形などの「地理的な条件」に強く左右される産業で、努力や工夫ではどうにもならない部分が大きい。

たとえば

  • ギリシャは山がちで農地が狭く、小規模な農業が多い
  • 一方、フランスの一部地域は広くて平坦で肥沃な土地が広がっている
  • フランスとギリシャが同じ農産物で勝負をしたら、フランスが勝つ

参考:ヨーロッパ統合の目的をわかりやすく:なぜベネルクスから始まった?

参考:ヨーロッパ連合(EU)の問題点をわかりやすく:なぜ格差が拡大する?

ヨーロッパは農業の「条件格差」が大きい

実際、ヨーロッパは農業の多様性と格差が非常に大きい地域である。

フランスやドイツ西部、デンマークのように自然条件に恵まれ、大規模化と機械化が進んだ地域もある一方で、

東ヨーロッパや南ヨーロッパのように、自然条件や歴史的条件が理由で、小規模で生産性の低い農業が続いている地域もある。

どうしても農家の努力だけでは埋められない差がある。

だからこそ、ヨーロッパの地域統合の枠組みのもとでは、つまり「共通市場」をつくって農産物の移動を自由にするならば、そのルールの下で苦しい思いをする人を守る仕組みが必要になる。

それが、EUの「共通農業政策(CAP)」である。

参考:ヨーロッパの農業をわかりやすく:地域差が大きいからこそ・・・

共通農業政策の内容

(2025.6撮影)

共通農業政策(Common Agricultural Policy: CAP)は、「不利な地域も含めて農業を守る」ためのEU全体の制度

時代によって内容が少しずつ変わってきたが、大きく2つの時代に分けて考えるとわかりやすい。

【第1期】価格支持中心の時代

当初のCAPは「農産物の価格を安定させる」ことが主な目的で、農家の所得を守るため、現EUが市場に大きく介入していた。

制度内容
統一価格制度EU全体で農産物の最低価格を決め、それを下回らないようにする(=域内の価格を安定化)
輸入課徴金安い外国産農産物には「関税+α」のような追加料金(課徴金)をかけ、域内市場に入ってこないようにする
輸出補助金域内価格が高いために輸出できない農産物を、補助金付きで国外に売る(価格差をEUが埋める)
買い上げ制度市場価格が統一価格より下がったときは、EUが農産物を買い取る

結果として、以下のようなことが起きた。

  • 価格は安定 → 農家は安心して生産できた
  • しかし、作れば作るほど売れる → 過剰生産に拍車がかかった →「バターの山」「ワインの湖」などが象徴的

【第2期】直接支払い中心の時代

過剰生産と財政負担が深刻になったため、CAPは大きく転換された。今では「価格を守る」のではなく、「農家を直接支援する」方式が中心となっている。

制度内容
価格支持の縮小買い上げ制度や輸出補助金は縮小。市場メカニズムを重視する方向へ
直接支払い(直接補助金)農産物の価格に関係なく、農家に対して直接お金を支払う制度へ移行
クロスコンプライアンス直接支払いを受け取るには、環境保護・動物福祉などの条件を守る必要がある
農村開発政策農村の雇用、インフラ整備、若者の農業参入支援などもCAPの一部として支援対象に

現在のCAPのポイント

  • 「作った分だけ補助金」→「一定面積ごとに支給」へ(生産量に連動しない)
  • 「農業の保護」から「持続可能な農業と地域の維持」へ目的が広がっている
  • 環境への配慮や農村の活性化が重視されている

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