【地理】寒帯の特徴・寒い土地の暮らしをわかりやすく
寒帯の特徴
常に寒さが厳しい
一年を通して気温が非常に低い。
- 年間を通して気温が低くなる理由
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地球が球体であることで、太陽光が地表に当たる角度が地域によって変わる。
その結果、太陽からの単位面積あたりの受熱量が、赤道に近いと大きくなり、赤道から遠いと小さくなる。
極地に近い地域は年間を通して太陽からの単位面積あたりの受熱量が少なくなる。
【寒帯(E気候)の条件】
- 最暖月の平均気温10℃未満
(細かい条件は覚える必要なし!)
樹木が育たない
緯度が高く太陽の熱が届きにくい季節がほとんどであるため、樹木が育たず、植生は草や苔が主体となる。
最も暖かい月の平均気温により2つの気候に分かれる
寒帯(E気候)は、気温によってさらに2つに分けられる。
- ケッペンの気候区分における寒帯の定義
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- ケッペンの気候区分の中の「樹木が見られない気候」のうち、
- 年降水量が乾燥限界に達し(=乾燥帯ではなく)、
- 最暖月の平均気温が10℃未満の気候
を寒帯と言う。
※寒帯は「E」と表す。ちなみに、熱帯はA、乾燥帯はB、温帯はC、冷帯はD。
- 一年中雨が多い→f(※ドイツ語feucht=湿潤)
- 夏に乾燥する→s(summerって思えばOK)
- 冬に乾燥する→w(winterって思えばOK)
ツンドラ気候(ET)
最暖月(夏)の平均気温が0℃以上10℃未満の地域。
短い夏の間に地表の氷や雪が一部融けてわずかな植物(コケ類や地衣類、草)が生える。
氷雪気候(EF)

最暖月の平均気温が0℃未満の地域。
一年中、地表が氷と雪に覆われる。
寒帯で人間はどんな工夫をしている?
寒帯は生物の生存に適さない過酷な環境で、恒常的に暮らす人間は限られている。
しかし全く人がいないわけではなく、例えば北極に近いカナダ北部やグリーンランド沿岸のツンドラ地帯には先住民のイヌイット(エスキモー)が古くから生活している。
冬の寒さへの工夫
冬は分厚いコートやセーターのほか、毛皮のコートや裏地の付いた防寒着を着用する。
特に動物の毛皮で作った衣服は高い保温性を持ち、昔から北欧やシベリアの先住民、北米の先住民などに重宝されてきた。
住居に関しては、イヌイットのイグルーが有名。イグルーは雪をレンガ状に固めて積み上げて作るドーム型の雪の家。


雪自体が空気を多く含む断熱材の役割を果たし、体温や照明の熱で内部の気温が0℃前後まで保たれる。
冬季の食料確保の工夫
寒帯では農耕が不可能なため、狩猟と漁労による動物性食品が主な食糧。
イヌイットの伝統的な食生活はほぼ肉食で、肉や魚を生で食べる文化がある。これはビタミンなどの栄養素を損なわず摂取する工夫でもある。
獲物として重要なのはアザラシやオットセイ(アシカの仲間)、カリブー(トナカイ)など。
寒帯での暮らしの具体例
ヨーロッパ
ロシア
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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ボルシチ | ビーツを使った赤いスープ。肉や野菜がたっぷり入っている。 | 寒冷地で栄養価を重視した料理。ウクライナ発祥で広く親しまれる。 |
ピロシキ | 肉や野菜を包んだ揚げ(または焼き)パン。 | 移動中にも食べられる保存性の高い庶民料理。 |
ブリヌイ | クレープ状のパンケーキ。サワークリームやジャムと一緒に食べる。 | 春の祭り(マースレニッツァ)などで供される伝統食。 |
キャビア | チョウザメなどの魚卵。パンにのせて食べる高級食材。 | ロシア帝政時代からの高級食文化と漁業資源。 |
サモワールでいれる紅茶 | 大きな湯沸かし器で紅茶を作る家庭的な飲み方。 | 寒冷地で温まる文化。社交と休息の象徴。 |
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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ロシア正教会 | ドーム状の屋根を持つ教会が特徴。儀式や祝祭が盛ん。 | ビザンツ帝国から伝来したキリスト教の一派が社会に根付く。 |
ダーチャ(郊外の別荘) | 都市住民が週末に農作業や休暇を過ごすための小屋。 | 社会主義時代からの自給自足文化と余暇の過ごし方。 |
バレエとクラシック音楽 | ボリショイ劇場など、芸術レベルが非常に高い。 | 帝政ロシアとソ連時代に国を挙げて育成された芸術文化。 |
マトリョーシカ人形 | 中に小さな人形が入った入れ子構造の木製人形。 | 家族・母性・伝統を象徴する民芸品。農村文化に由来。 |
ノルウェー
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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ルーテフィスク | 干し魚をアルカリ処理して戻した料理。クリスマスなどに食べられる。 | 寒冷な北欧で発達した魚の保存食文化。 |
グラブラックス | ハーブと砂糖・塩で漬けたサーモンの冷製料理。 | 海産物が豊富な漁業国家ならではの調理法。 |
ワッフル | ハート形で、甘く軽い食感のワッフルにジャムやサワークリームを添える。 | カフェや家庭で親しまれる軽食文化。 |
フィスクシュッペ(Fiskesuppe) | 魚や貝、野菜が入ったクリーミーなスープ。 | 冷涼な気候に合った温かい汁物。 |
イェトスト | キャラメルのような風味の山羊乳チーズ。パンにスライスして食べる。 | 乳製品文化と保存性の高い食品の組み合わせ。 |
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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スキーと冬のアウトドア文化 | クロスカントリースキーなどが日常的に楽しまれる。 | 雪が多く寒さが厳しい自然環境に適応したスポーツ文化。 |
ブーナッド | ノルウェーの民族衣装。祝祭日や式典で着用。 | 農村文化と地域アイデンティティの象徴。 |
木造の草屋根の家(スターヴ教会など) | 草や苔を載せた屋根が特徴的な伝統的建築。 | 断熱性と自然素材を活かした寒冷地仕様の建築。 |
キリスト教(ルター派) | 教会の祝祭や行事が生活に根付いている。 | 宗教改革以降のプロテスタント文化が主流。 |
トロール伝説やサーミ文化 | 北欧神話や少数民族サーミ人の文化が残る。 | 自然崇拝や民話の中に生きる精神文化。 |
スウェーデン
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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ミートボール(Köttbullar) | 肉団子をクリームソースで煮込み、ジャムやマッシュポテトと一緒に食べる。 | 家庭料理として定着。保存性と栄養バランスを重視。 |
サーモン料理 | 燻製・塩漬け・マリネなど、さまざまな調理法で楽しまれる。 | 海洋資源が豊富な北欧の食文化。 |
クリスプブレッド(Knäckebröd) | 薄くてパリパリの硬いパン。長期保存が可能。 | 寒冷地の保存食文化。軽くて持ち運びしやすい。 |
セムラ | アーモンドペーストと生クリームを詰めた甘いパン。断食前に食べる習慣。 | カトリック由来の食習慣がプロテスタント文化にも残る。 |
フィーカ(Fika) | コーヒーと甘いお菓子で過ごす休憩時間。職場や家庭で重要な文化。 | 社会全体で「ゆとり」と「平等」を大切にする精神から生まれた習慣。 |
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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スモーガスボード | 多種類の料理を少しずつ取って食べるビュッフェ形式の食文化。 | 来客や祝祭の際に多様な料理を楽しむ伝統。 |
シンプルなインテリア(IKEAなど) | 機能的で自然素材を活かした住まいづくり。 | 寒冷地での快適な室内生活と合理性を重んじる美意識。 |
夏至祭(ミッドサマー) | 夏至の時期に花冠をかぶり、踊りや食事で祝う。 | 暗く長い冬を乗り越えた喜びを祝う伝統行事。 |
ルター派キリスト教 | 教会の祝祭や行事が残るが、世俗化も進んでいる。 | 宗教改革以降のプロテスタント文化と現代の自由志向の共存。 |
フィンランド
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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カレリアン・ピーラッカ | ライ麦の皮で米粥などを包んだ伝統的なパイ。バターと卵をのせて食べる。 | 東フィンランド発祥。寒冷地でも育つライ麦を活かした料理。 |
サーモンスープ(ロヒケイット) | クリームベースのサーモンスープ。にんじんやジャガイモも入る。 | 冷たい気候と豊かな漁業資源を活かした家庭料理。 |
ルーネベリタルト | アーモンド風味のケーキ。フィンランドの詩人にちなんで命名。 | ナショナルアイデンティティと文学の尊重。 |
ブラックプディング(マッカラ) | 血と穀物を使ったソーセージ。焼いてジャムと一緒に食べる。 | 狩猟と農村の保存食文化。栄養を重視。 |
コーヒー文化 | 一人あたりのコーヒー消費量が世界トップクラス。 | 長く寒い冬と、社交・リラックスの文化。フィーカにも似た文化がある。 |
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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サウナ | 家に1つあるのが普通。入浴後は外気浴や湖に入ることも。 | 寒冷地での健康維持と心身のリラックス法。 |
木造の家と自然との調和 | 木材を使った暖かみのある住宅。大きな窓で自然光を取り入れる。 | 森林大国で自然との共生を重視する美意識。 |
オーロラ観光と静かな自然 | 北部では冬にオーロラが見られ、国内外から観光客が訪れる。 | 地理的条件と手つかずの自然を活かした観光資源。 |
ムーミン文化 | トーベ・ヤンソンによる国民的キャラクター。物語を通じて哲学や人間関係を描く。 | フィンランド的な孤独、自然、優しさの象徴。 |
北アメリカ
カナダ
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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プーティン(Poutine) | フライドポテトにグレイビーソースとチーズカードをかけた料理。 | ケベック州発祥。寒冷地で温かく高カロリーな食事が好まれる。 |
メープルシロップ | 楓の樹液から作る甘味料。パンケーキなどにかける。 | 北米の森林地域に多いカエデを利用した特産品。 |
スモークサーモン | 燻製したサーモン。前菜やサンドイッチに使用される。 | カナダ西海岸や先住民文化に根ざした魚食文化。 |
ツアティエール | ケベック地方のミートパイ。主に冬の祝祭で食べられる。 | フランス系移民の伝統料理。寒冷な冬と祝祭文化が背景。 |
バノック | 先住民由来の平らなパン。焼いたり揚げたりして食べる。 | 狩猟採集民の携帯食。開拓時代や移動生活に適応した料理。 |
生活・文化の具体例 | 説明 | 背景 |
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イグルーと木造住宅 | 寒冷地の伝統的な雪の家(イグルー)や森林資源を使った住宅。 | 地域の気候や自然資源に基づいた住居文化。 |
アイスホッケー文化 | 国技的存在で、プロ・アマ問わず盛んに行われる。 | 冬が長く寒い気候と地域コミュニティのスポーツ文化。 |
先住民文化(イヌイット・ファーストネーションなど) | 独自の言語・宗教・芸術・生活様式が残されている。 | 北米大陸の先住民社会と文化的復権の動きが背景。 |