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なぜカジノを誘致するのか?統合型リゾート(IR)のビジネスモデルを解説

モチオカ(望岡 慶)

カジノを誘致する都市の特徴や、最近話題の統合型リゾート(IR)の成功の条件について考えてみる。

モチオカ
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シンガポール(2022.9撮影)

カジノは「何もない場所」が選ぶ産業?

カジノという産業は、地理的・歴史的な強みが乏しく、自力で価値を生み出しにくい場所でこそ導入されやすいものである。

たとえば

  • 製造業が弱い
  • 鉱産資源など、自然の恵みが少ない
  • 歴史的・文化的な観光資源が乏しく、都市としてのブランド力に欠ける

このような「何かが足りない場所」が経済の再生や活性化を狙って逆転の一手として選ぶのが、カジノ(統合型リゾート=IR)だ。

マカオのコタイ地区(2024.3撮影)

なぜカジノは「何もない場所」で導入されやすいのか?

それは、カジノ産業の「導入のしやすさ」という特徴にある。

カジノ(統合型リゾート=IR)は、製造業や研究開発と比べて

  • 大規模なインフラ整備を必要としない(比較的短期間で整備可能)
  • 高度な人材や地元産業との連携をあまり必要としない
  • 「土地のブランド力」よりも、「人が来るかどうか」が重要

といった特性がある。

そのため、ブランド力が乏しく、目立った産業もない都市では、「今あるものでは勝てないからこそ、カジノで勝負する」という発想から、積極的に誘致を進めようとする傾向が強まる。

一方、すでに観光地としての魅力やブランドが確立している都市(たとえば東京や京都など)では、「カジノ=ギャンブル都市というイメージがマイナスになる」として、導入には慎重な姿勢を見せがち。

マカオのグランド・リスボア(2024.3撮影)

実際にカジノを導入した地域

実際にカジノを導入した都市として有名なのが、マカオやラスベガス、シンガポールである。

マカオ中国返還後に観光収入が伸び悩み、「旧ポルトガル領」というだけでは生き残れない状況に。
ラスベガス砂漠地帯で農業も工業も難しい立地。
シンガポール金融や物流ではすでに国際的な地位を確立していたが、観光部門の拡張策としてカジノを導入した(2010年)。

こうして見ると、いずれの都市も「既存の強みだけでは、これからの競争に勝てない」と判断したうえで、あえてカジノを戦略的に受け入れたと言える。

マカオのセナド広場(2024.3撮影)

カジノのビジネスモデルとは?

では、カジノ産業は実際にどのようにしてお金を稼いでいるのか?

現代のカジノは「カジノ単体」では運営されない

「カジノ」と聞くと、スロットやルーレットなど、ギャンブルだけの施設を思い浮かべるかもしれない。しかし現代のカジノは、それだけではない。

でも今のカジノは、ギャンブルだけじゃないんです。

昔のラスベガスのような「カジノだけの場所」は少なくなり、今はホテルやレストラン、ショッピングモール、ライブ会場、国際会議場などが一緒になった「統合型リゾート(IR)」という形が主流となっている。

マカオのコタイ地区(2024.3撮影)

「大人向けのテーマパーク」として運営(IRとは?)

イメージとしては、「カジノがある大人向けのテーマパーク」のような存在。

カジノはあくまで「人を集めるための入り口(呼び水)」の役割を担い、訪れた人たちは、宿泊したり、買い物をしたり、美味しいものを食べたり、コンサートやショーを楽しんだりして、施設全体でお金を使っていく。

つまり、カジノだけでなく、施設全体から幅広く収益を上げていく。これがIRのビジネスモデルの基本的な考え方である。

分類内容
ゲーミング収益カジノ(スロット、ポーカー、ルーレットなど)による利益。お客さんの「負けた分」が収益になる。
非ゲーミング収益ホテル、レストラン、ショッピング、コンサートホール、会議場(MICE)など。ギャンブルをしない人の利用も大切。

では、なぜカジノだけでなく施設全体から収益を上げる方針をとるのか?

カジノの中身はどこもほとんど同じ

スロットやルーレット、ポーカーといったカジノゲームは、世界中どこでもルールがほぼ同じ。

どの国のIRに行っても「ゲームの中身」は基本的に変わらないため、ゲームの魅力だけでは差別化が難しい

マカオのカジノ(2024.3撮影)

カジノ利用者は一部の人に限られる

また、カジノを利用するのは基本的に富裕層やギャンブル目的の一部の人たちに限られる。

こうした特定の「VIP客」に頼るビジネスモデルは、次のようなリスクを抱えている。

  • 景気の悪化で客足が遠のく
  • 国際情勢や為替の変動で訪問者数が変わる
  • 規制の強化(依存症対策、送金制限など)で収益が下がる

このように、一部の顧客層に収益を依存する構造は、非常に不安定でリスキーである。

シンガポールのマリーナベイ・サンズ(2024.12撮影)

ギャンブル以外で差別化をする

そこで重要になるのが、ギャンブル以外で人を集める工夫である。

  • ホテルの宿泊料
  • ブランドショップでの買い物
  • 高級レストランでの飲食
  • ミュージカルやライブショー
  • 屋上プールや展望台
  • 子ども向け施設
  • 大規模イベントや国際会議(MICE)の開催

こうしたカジノ以外の体験を総合的に楽しめる場としての魅力を作ることで、富裕層だけでなく、一般の旅行者やファミリー層もターゲットにした広い集客が可能になる。

つまり、「ギャンブル目的の人だけ」ではなく、普通の旅行客やファミリーでも行きたくなるような総合リゾートとしての魅力を作ることが、IRの成功のカギである。

シンガポールのマリーナベイ・サンズとマーライオン(2022.9撮影)

差別化のカギは「その場所ならではの価値」

とはいえ、どこにでもあるカジノ+高級ホテルの組み合わせでは、人はなかなか足を運んでくれない。大切なのは、「その場所ならではの価値」があるかどうかである。

モチオカ
モチオカ

そう考えると、マカオよりもシンガポールの方がイケていると思う。

シンガポールのガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(2022.9撮影)

シンガポールの統合型リゾート(IR)は、「あくまでカジノは全体の中の一部」という位置づけで運営されている。

たとえばマリーナベイ・サンズに行く人の多くは、象徴的な屋上プール、高層階からの絶景、ショッピングモールやレストラン、アート施設など、リゾートとしての体験を楽しむことが目的で、カジノ目当ての人はむしろ一部にすぎないだろう。

また、シンガポールはクリーンで先進的な観光・ビジネス都市というブランドイメージが確立されている。

シンガポールのマリーナベイ・サンズ(2022.9撮影)
マカオのカジノ(2024.3撮影)

一方、マカオのIRは、「カジノがメイン」という印象が強い。というより、マカオという都市そのものが「カジノの街」という、ややダーティな印象をまとっていると感じる人も多いと思う。いかがわしい街マカオ。

マカオ(2024.3撮影)

家族連れや一般の旅行者がシンガポールとマカオのどちらを選ぶか?というと、シンガポールだろう。

シンガポール(2024.12撮影)

世界の代表的なカジノ企業

最後に、世界中でカジノ産業を展開する代表的な会社を紹介する。

アメリカ系

アメリカは、統合型リゾート(IR)というビジネスモデルを生み出した国である。ラスベガスを起点に、世界中にIRを展開してきた実績がある。

ラスベガス・サンズ(Las Vegas Sands)

アメリカ・ラスベガスに本拠を置く、世界最大級のカジノ運営会社。シンガポールの「マリーナベイ・サンズ」も、この会社が開発・運営している。

MGMリゾーツ(MGM Resorts)

ハリウッド映画で有名な「ライオンのロゴ」で知られるMGMグループの一部。ラスベガスの「ベラージオ」や「MGMグランド」などの高級IRを展開し、日本では大阪IRの運営予定企業として選ばれている。

ウィン・リゾーツ(Wynn Resorts)

ラスベガスやマカオで、高級感のある洗練されたIRを展開している。

中国系(マカオ系)

中国系の企業は、世界最大のカジノ売上を誇るマカオを拠点に成長してきた。主にアジア人富裕層をターゲットに、豪華なIRを次々に展開している。

ギャラクシー・エンターテインメント(Galaxy Entertainment)

香港に本社を置き、マカオで複数のカジノホテルを運営。マカオをカジノの中心地として確立させた代表的企業の一つである。

メルコ・リゾーツ(Melco Resorts & Entertainment)

マカオに拠点を持ち、デザイン性とテクノロジーを融合させた近未来型IRを展開。日本市場への進出にも積極的で、かつて横浜IR計画にも関心を示していた。

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