インドの産業をわかりやすく:なぜジェネリックやワクチンに強い?
「インドは経済発展がすごい」。こんな言葉を耳にすることが増えた。
確かに人口は世界一になり、中間層も増えているので、消費や経済活動が盛んになるのはわかる。
さらに、グーグルやマイクロソフトなど、世界的IT企業のCEOにインド系の人材が就任しているのを見ても、インドの勢いを感じる。

でも正直、インドの産業といってもいまいち具体的なイメージが湧かない。
インドは一体、どんな産業が強いのだろうか?
インドの主要産業
- ダイヤモンド加工業
- 情報通信産業(IT産業)
- 化学産業
- ジェネリック医薬品産業
- バイオ産業(特にワクチン製造)
ダイヤモンド加工
世界のダイヤモンドの9割以上がインドで加工されている。
高品質なダイヤモンドを担当するイスラエルとは異なり、インドは低中級のダイヤモンドを担当。
輸入した原石を安価な労働力で研磨加工することで国際競争力を保っている。


IT
南部のバンガロールがICT産業の中心地。「インドのシリコンバレー」と呼ばれている。
背景には「理数系教育の充実」「英語力」「低賃金で優秀な人材」がある。
インフラが不十分でも事業展開しやすい点や、アメリカとの時差を活かしたソフトウェア開発の受託も発展を支えた。
化学
英領時代、インドには欧州の化学技術や製造法が早期に導入されていた。
独立後は石油・肥料・化学薬品を「戦略産業」と位置づけ、政府が支援。
そのため、医薬品産業に欠かせない有効成分を国内で生産できる基盤が整った。
※化学工業は環境への負荷が大きい。
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ジェネリック医薬品
インドは世界有数のジェネリック医薬品生産国。
※ジェネリック医薬品=先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に製造・販売される、新薬と同じ有効成分を同量含み、効き目や安全性が同等である医薬品。
世界的に見ても、包装形態(錠剤、カプセルなどの直接使用可能な形)での医薬品輸出に占めるインドの割合は結構高い。
特にアフリカ諸国や中東諸国、東南アジア諸国にとって、インド製の医薬品は欠かせないものとなっている。
関連:インドは世界の製薬工場
バイオ(ワクチン製造)
インドは世界最大のワクチン製造国。世界中の子ども向けワクチンの約60%がインド製。
南部のハイデラバードがバイオ産業の中心地。
インドで強い産業を支えるもの
なぜこれらの産業が盛んなのだろう?何か共通点はあるのだろうか?
・・・ダイヤモンド加工業以外は、理系って感じがする。
よく言われるように、「理系人材の豊富さ」がインドの強みなのは確かなのだろう。
不平等な構造
しかしその一方で、インドの主要産業は
身分制度や人件費の安さ、貧困といった、ある種の不平等な構造を背景に発展してきた側面がある。
ダイヤモンド加工 | インドの人件費の安さが国際競争力の源泉。 |
IT | 発展の背景には、カースト制度という身分制度からから逃れ、新しい産業(IT)に活路を見出そうとした人々の存在がある。これは、IT産業が能力主義的で、出自に左右されにくい職業領域だったことと関係している。 |
化学 | 環境汚染や健康被害のリスクを伴いながらも、安全管理や環境規制が十分でなかった時期に成長した側面がある。 |
ジェネリック医薬品 | 薄利多売ビジネスゆえにインドの人件費の安さが国際競争力の一因となっている。。もちろん理系人材豊富さや高い技術力も重要な強みだが。 |
バイオ(ワクチン製造) | 公的医療制度がまだ十分に整備されていない中、無料の治験に参加することで医療にアクセスしようとする貧困層の存在が、治験を実施しやすい環境を形成していたことが一因。 |
もちろん時代が進むにつれて、人権意識や倫理基準は向上しているだろう。
しかし、「インドでは相対的に生活や命が軽視されやすい層が一定数存在してきた」という現実が、一部の産業がグローバルに活躍できる産業へと成長する下地となった、というのはあながち間違いでもないと思う。
インドの製造業
インドの製造業はGDP全体に占める割合が低い(15%程度)。
2014年に発足したモディ政権は、中国に依存しないサプライチェーンの構築するために(←経済安全保障)「Make in India」制作を掲げている。
自動車産業
1981年に日本のスズキ(当時は鈴木自動車工業)とインド政府の合弁による会社が設立された。
