国際金融のトリレンマをわかりやすく解説してみる

モチオカ(望岡 慶)

モノ・カネのやり取りをすると豊かになれる。が・・・

もちおか
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貿易(モノをやり取り)すると豊かになれる

国と国が物をやりとりする「貿易」には、大きなメリットがあります。

たとえば、日本はコメを作るのは得意ですが、石油を自分たちで掘り出すことはほとんどできません。一方、サウジアラビアは石油は豊富にありますが、工業製品を作るのは日本ほど得意ではありません。

このとき、それぞれが「得意なもの」を作って交換し合えば、どちらの国も自分だけで何でも作ろうとするよりずっと豊かになれます。

この「得意なものに集中して、苦手なものは交換で手に入れる」という考え方を「比較優位」と呼びます。現代で世界中の国々が貿易を行っているのは、この比較優位の原理があるからです。

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が、貿易をするには面倒なこともある

しかし、貿易には豊かさをもたらす反面、国内だけで経済が完結している場合には生じない、新しい課題も出てきます。

お互いに価値を感じている通貨が必要

貿易では、物だけでなくお金のやりとりが必要です。ここに、貿易特有の難しさがあります。

たとえば日本がサウジアラビアから石油を買う場合、日本円をそのままサウジアラビアに渡しても、サウジアラビアでは日本円を使って買い物ができません。つまり、どちらの国でも信用されている共通のお金が必要になります。

昔は金や銀がその役割を果たしていました。現代では、世界中で最も広く信用されているアメリカドルが、国際的な取引の共通通貨として使われることがほとんどです。

また、貿易をスムーズに続けるためには、自国のお金とドルの交換比率(これを「為替レート」と言います)が安定していることも大切です。交換比率がコロコロ変わると、「いくらで売れるのか・買えるのか」が予測しにくくなり、取引のリスクが高まってしまいます。

なぜ外貨獲得が必要なのか?
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為替レートをどう決めるかが難しい

では、為替レートはどのように決めればよいのでしょうか。大きく分けて2つの方法がありますが、それぞれに問題があります。

①あらかじめ比率を固定してしまう方法(固定相場制)

国どうしで「1ドル=○○円」と決めてしまう方法です。取引する側にとっては予測が立てやすく、安心です。

しかし、大きな問題があります。この比率を守り続けるために、国は金融政策(景気対策としてお金の量を増やすなど)の自由度を大きく失ってしまいます。たとえば景気が悪化して「お金を増やして景気を良くしたい」と思っても、そうすると為替レートが崩れてしまうため、思い切った対策が取れなくなるのです。

また、各国がそれぞれ自国の景気を優先して勝手にお金の量を変えてしまうと、せっかく決めた固定比率が実態とかけ離れてしまうという問題も起きます。

②市場の動きに合わせて比率を変動させる方法(変動相場制)

実態に合わせて、日々の需要と供給によって自然に為替レートが決まる方法です。現在の日本もこの方法を採っています。

この方法では、固定相場制のような「金融政策が縛られる」問題は小さくなります。しかし、短期間でレートが大きく上がったり下がったりする乱高下が起きることがあり、貿易をしている企業にとっては価格の見通しが立てにくくなるという問題があります。

資本移動(カネのやり取り)を自由にすると豊かになれる

ここまでは、物のやりとり(貿易)に伴うお金の流れについて話してきました。しかし現代では、物のやりとりとは別に、お金そのものが国境を越えて動くことが日常的に起きています。これを「資本移動」と呼びます。

たとえば次のような動きがすべて資本移動です。

  • 日本の企業がアメリカに工場を建てるためにお金を送る
  • 外国の投資家が「日本の株が値上がりしそうだ」と判断して日本株を大量に買う
  • 金利が高い国に預金しようと、世界中からお金が集まる

国がお金を自由に国境を越えさせられる状態(自由な資本移動)には、その国にとって大きなメリットがあります。

メリットは大きく「お金を呼び込む側」と「お金を出す側」の2つに分けて考えるとわかりやすいです。

①外国からお金を呼び込める

自国だけの税収や国民の貯蓄だけでは、工場・インフラ・新技術の開発に必要なお金が足りないことがあります。

しかし資本移動が自由であれば、「この国は将来有望だ」と判断した外国の投資家が資金を持ち込んでくれます。その結果、自国だけでは実現できなかった規模の投資が可能になり、雇用も増え、経済が一気に成長できます。

かつて高度経済成長期の日本や、現在の東南アジア各国が外国からの投資を積極的に呼び込もうとしているのは、まさにこのためです。

②自国の企業が海外に投資できるメリット

資本移動が自由であれば、自国の企業が海外に工場を建てたり、外国企業を買収したりすることも容易になります。海外で稼いだ利益は最終的に本国へ送金されるため、国全体の富を増やすことができます。

また、資源の乏しい日本のような国にとっては、石油や鉄鉱石などが豊富な国に投資することで、安定的な資源の供給ルートを確保するという安全保障上の意味もあります。

が、自由な資本移動には大きなリスクもある

一方で、資本移動が自由であることは、深刻な問題も引き起こします。

お金は「より安全で、より有利な場所」に瞬時に動きます。そのため、ある国の経済に少しでも不安な材料が出ると、大量のお金が一気に国外へ逃げ出すことがあります。これを「資本逃避(キャピタルフライト)」と呼びます。

たとえば1997年のアジア通貨危機では、タイやインドネシアなどの国々から外国の投資家が一斉に資金を引き揚げたことで、これらの国の通貨が急激に暴落し、経済が大混乱に陥りました。お金が自由に動けるからこそ、逃げ足も速くなります。

国は3つのことを同時に実現したい

ここまでの話をまとめると、国が国際経済の中で理想的な状態を保とうとすると、次の3つのことを同時に実現したいという欲求が生まれます。

やりたいこと内容
① 為替の安定自国通貨の価値を安定させ、貿易や取引を予測しやすくしたい
② 金融政策の独立景気に合わせて自由にお金の量や金利を調整したい
③ 自由な資本移動海外との投資・資金のやりとりを自由に行いたい

しかし、この3つを同時に実現することはどんな国でも不可能です。必ずどれか1つを諦めなければなりません。これを「国際金融のトリレンマ」と呼びます。

国際金融のトリレンマ

その理由を理解するために、まず「金利」と「資本移動」の関係を押さえておきましょう。

お金は、より金利(利子)の高い国へ自然に流れます。たとえば日本の金利が1%でアメリカの金利が5%なら、投資家は日本円をドルに換えてアメリカに預けようとします。これが資本移動です。

この動きを頭に置きながら、「もし2つを選んだらどうなるか」を考えてみましょう。

〈組み合わせA〉②+③を選んだ場合(①為替の安定を諦める)

「金融政策の独立」と「自由な資本移動」を両立しようとすると、為替レートが安定しなくなります。

なぜかというと、自国の景気対策として金利を下げると、投資家が「金利の高い外国にお金を移そう」と動き、自国通貨が売られて価値が下がります。逆に金利を上げると通貨が買われて価値が上がります。つまり金融政策を動かすたびに為替レートが動いてしまうのです。

これが現在の日本やアメリカなど、多くの先進国が採用している仕組みです。為替レートは日々変動しますが、その代わり自国の景気に合わせた金融政策が自由にできます。

〈組み合わせB〉①+③を選んだ場合(②金融政策の独立を諦める)

「為替の安定」と「自由な資本移動」を両立しようとすると、金融政策の自由度を失います。

なぜかというと、為替レートを固定したまま自国だけ金利を下げると、投資家が「金利の高い外国にお金を移そう」と一斉に動き、大量の資金が流出します。そうなると固定したはずの為替レートが崩れてしまいます。レートを守るためには他国と同じ水準に金利を合わせ続けるしかなく、自国独自の景気対策ができなくなります。

現在の香港がその典型例です。香港ドルは長年、アメリカドルと固定されていますが、その代わり香港はアメリカの金融政策に金利を合わせざるを得ず、独自の景気対策がほとんどできません。

〈組み合わせC〉①+②を選んだ場合(③自由な資本移動を諦める)

「為替の安定」と「金融政策の独立」を両立しようとすると、資本移動を制限するしかありません。

なぜかというと、資本が自由に動ける状態では、金融政策を動かすたびにお金が国外へ流出・流入して為替レートが崩れてしまいます。そこで「そもそもお金を自由に国外へ出させない」という強制的なルールを設けることで、この問題を封じ込めます。

中国がその代表例です。中国は人民元の価値をある程度管理しながら、独自の金融政策も維持しています。その代わり、中国国内から海外へお金を自由に移すことには様々な規制があります。

まとめ

国際金融のトリレンマとは、「為替の安定」「金融政策の独立」「自由な資本移動」という3つの理想を同時に達成することはできず、どの国も必ず1つを諦めなければならないという、経済の根本的な制約です。

どれを諦めるかは、その国の事情や優先順位によって異なります。正解はなく、それぞれに一長一短があります。

組み合わせ諦めるもの現実の例
②金融政策の独立+③自由な資本移動①為替の安定日本・アメリカなど多くの先進国
①為替の安定+③自由な資本移動②金融政策の独立香港
①為替の安定+②金融政策の独立③自由な資本移動中国

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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