首相の外遊って何してるの?なんで政府間合意で民間企業が動くの?
こんなニュースをよく目にします。
- 「○○首相がオーストラリアを訪問し、豪首相と会談。エネルギー分野での相互協力に関する覚書を締結しました」
- 「○○首相がアメリカを訪問。米大統領と会談し、防衛·経済の両面で緊密に連携していくことを確認しました」
こうしたニュースを見るたびに、「そもそも民間企業がやる経済活動を、政府が決めていいの?」と思っていました。
この記事では、政府間合意と民間経済の関係について解説したいと思います。
外交の場で話し合われる内容
外交の場で話し合われる内容は、大きく2種類に分けられます。
①政府が直接決められること
- 関税率の変更(例:トランプ政権との貿易交渉)
- 軍事同盟・安全保障の取り決め(例:日米地位協定の改定協議)
- ビザの免除・緩和
- 政府開発援助(ODA)の供与
これらは政府の権限そのもの。外交の場で話し合われるのは納得です。
②民間経済に関わること
- 「LNGを相互融通する」
- 「水素エネルギーで官民協力する」
- 「デジタル分野でスタートアップの連携を促進する」
こちらは、実際に動くのは民間企業です。政府が決めていいのでしょうか?
政府間合意は、民間企業に何をもたらすか?
政府は民間企業に「この取引をしろ」と命令することはできません。しかし、民間企業が動きやすい条件を整えることはできます。
リスクを下げる
民間企業が「こういうビジネスいけそうだなあ」と思った際、実際にGOするかどうかは、その事業のリスクの大きさに左右されます。リスクがあまりに大きいと、たとえ「いけそうだなあ」と思っても、社内でGOサインが出ないことがある。
特に外国企業との長期契約や大規模インフラ投資は二の足を踏みやすいです。相手国の政治状況・法制度・規制が変化したり(=カントリーリスク)、有事の際に輸出規制・禁輸措置が行われたりしたときに被る損害がとてつもなく大きいからです。
政府間合意は、このリスクを下げる保険として機能します。
たとえば日本とオーストラリアの間でLNGの長期供給に関する政府間合意が結ばれると、商社やエネルギー企業は「仮に両国の関係が悪化しても、この合意の枠内では取引が保護される」という安心感を得られます。
商談の場をつくる
合意に基づいて、政府がビジネスフォーラムを開催したり、企業マッチングを行なったりします。
政府のお墨付きがある場には、相手国の信頼できるパートナーが集まるため、普通なら出会えなかった企業同士のビジネスが動き出します。
政府間合意の具体例を見てみよう!
例えば2026年5月に、以下のような共同宣言が出されました(←日豪首脳会談及び署名式(外務省))。これは具体的にどのような効果をもたらすものなのでしょうか。
これは条約ではなく、あくまで「共同宣言」です。条約と違って、共同宣言には法的拘束力はありません。
省庁・政府系機関の動き
ただし、この共同宣言は具体的なメカニズムや機関名が多数列挙されているため、以下のような動きが起きることが予測されます。
- JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構) がオーストラリアの資源会社との共同調査・出資案件の審査を加速させる
- 外務省が「経済安全保障対話」「エネルギー・資源対話」などの二国間対話の定例化・議題設定を行う
- 財務省・国際協力銀行(JBIC)によるオーストラリアの重要鉱物プロジェクトへの融資・保証の案件が増える
民間企業の動き
では、日本の資源・エネルギー関係の民間企業は、どのように動くのでしょうか。政府に「こういう契約を結ぶために、オーストラリアのあの企業と交渉してくれ」とか言われるのでしょうか?
①民間企業はすでに動いている
たとえば三菱商事のLNG担当者は、今回の共同宣言が出る前から、オーストラリアのエネルギー企業と継続的に接触しているはずです。商社には現地法人・駐在員がいて、日常的に情報収集・交渉をしていたはず。
この状況で共同宣言が出ると、社内でこういう判断が起きます。
「政府が日豪のエネルギー協力を重要政策と位置づけた。ということは、JOGMECの出資支援や JBICの融資が通りやすくなる。今が契約交渉を加速するタイミングだ!」
「この案件は日豪共同宣言の方針と合致する」という論拠が使えると、社内稟議が通りやすくなります。つまり共同宣言(政府間合意)はビジネスのGOサインになるわけです。
②政府系機関に支援を申請する
契約交渉がある程度進むと、民間企業はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)・JBIC(国際協力銀行)に出資や融資をしてください!と相談します。
共同宣言の方針と合致するビジネスに関する出資・融資ですので、審査は通りやすいです。
こうして、政府間合意に背中を押される形で、民間企業はリスクが大きいビジネスを実際に始めることができるようになります。
政府間合意のでき方
では、政府間合意の中身はどのようにできるのでしょうか?
例えば三菱商事などの社員から、政府関係者に「こういう事業をオーストラリアで始めたいので、政府が後押ししてください」みたいな事前交渉があったりするのでしょうか?
民間企業・業界団体の要望・意見を踏まえて作られる
民間企業・業界団体が政府に要望を伝える正式な仕組みがあります。
経団連や業界団体が、毎年「政策要望書」を各省庁に提出しています。たとえば「オーストラリアのレアアース開発への支援枠を広げてほしい」「投資協定に有利な条項を足してほしい」といったリクエストです。
また、「勉強会」「意見交換会」のような非公式ルートもあります。経産省の資源エネルギー庁の担当者と民間企業の部長クラスは、頻繁に「情報交換会」という名の話し合いを行なっているようです。
つまり政府間合意の中身には、民間企業や業界団体の考えがかなり盛り込まれているということです。
首脳会談の前にほぼできている
「首脳会談で初めて交渉が始まる」ということは、原則としてありません。
首相が実際に外国に行く前に、すでに日本側と相手国側で要望・文書は作成していて、しかもすでに外務省経由で文書の精査もなされています(←シェルパと呼ばれる実務担当者が準備している)。
- 合意文書の文言はほぼ確定している
- 合意できない項目は議題から外されている
- 「首脳が判断する必要がある政治的決断」だけが残される










