為替介入は税金のムダなのか?
先日、日本で円安を是正する、つまり円高に誘導するための為替介入が行われました。約11兆円ほど使った、という報道がありますが、今回はこの為替介入が「税金のムダ」なのかという点について話したいと思います。
結論を先に言うと、税金の無駄ではありません。
かと言って、一部で言われているように「為替差益が出て得をした(プラス)」と喜べるようなものでもない。というのが実態です。マイナスでもなければプラスでもない。
このことについて説明します。
前提の話
そもそも「お金」とは何か
本題に入る前に、そもそも「お金(通貨)」や「為替」とは何なのかという前提を整理しておきます。
「そんなの分かってるから早く本題に行けよ」という人もいるかもしれませんが、基本的なところから説明させてください。
人間は、服や食べ物、住居といった「価値あるもの」を相互に交換して生活しています。
かつては物々交換が行われていましたが、野菜などは交換しようとしている間に腐ってしまいますし、服とお米を交換するにしても、どれくらいの量で交換するかをいちいち考えるのは面倒ですよね。
そこで発明されたのがお金(通貨)です。あらゆるものの価値を通貨という共通の尺度(定規)で数値化することで、交換がやりやすく、便利になったわけです。
価値の持ち方はいろいろある
私たちは持っている資産(価値)を、さまざまな形で保持しています。価値の持ち方はいろいろあります。
服にも価値があるし、お米にも価値があるし、お金にも価値があるし、時計にも価値があるし、株式にも価値があります。
どのようなバランスにするか?は人それぞれです。すべて日本円で持つという資産(価値)の持ち方もできます。パソコンやタブレットなどのガジェット、高級家具、高級時計、レアスニーカーなどの形で持つこともできます。ミニマリストのように、ものを一切持たないやり方もあります。
価値を有利な形で持ちたい
いずれにせよ、できるだけ有利な、価値が損なわれない形で持ちたいわけです。
たとえば、今持っている全財産(すべての価値)を、ニンジンと交換したとします。ニンジンは1ヶ月もすればすべて腐ってしまいますよね。ニンジンという形で持っておくと、その価値は失われてしまう。こういう持ち方だとまずいわけです。だから、腐らない持ち方、たとえばお金に変えて日本円という形で持ちたいと考えるわけです。
一方で、他の国の通貨で持つというやり方もあります。アメリカのドルとか、ヨーロッパのユーロとか。国それぞれで、ものを交換するために使われる通貨が違い、日本国内のコンビニでアメリカドル決済をすることはできませんが、アメリカドルという形で価値を持つことも可能です。
為替レート
日本円とアメリカドル、どちらも価値があるものである以上、お互いに交換(両替)できます。ただ、その交換比率は常に変わっています。
お金というのは、いわば価値の目盛りです。それ自体に価値があると同時に、目盛りでもある。
たとえば今1ドル=100円という交換比率だったとしても、日本円という目盛りも、アメリカドルという目盛りも、常に伸び縮みしています。アメリカドルの目盛りが伸びて、日本円の目盛りがぎゅっと縮むと、1ドル=160円というふうに比率が変わっていく。
等価交換
ただ、交換するその時々においては、価値の等価交換が行われているだけです。両替をしているだけなので、価値が失われたり増えたりすることはありません(価値が搾取されている場合は別ですが)。
同じ価値同士でなければ、そもそも交換は成立しませんよね。お互いに「これくらいなら妥当だ」と思うからこそ(=等価交換だと思うからこそ)、交換が成立するわけです。
お金を使うことは「損」ではない
よく、お金を使う=お金が失われるから、もったいない、というふうに思う人がいると思いますが、これは違います。お金を使うというのは、そのお金が持つ価値と同等のものが手に入る、ということです。
たとえばディズニーランドのチケットは1万円くらいですが、1万円を払うことで1万円分の体験が得られる。その1万円の価値はその場で消費されますが、体験や思い出として、自分の中に残り続けるわけです。
ここまでを踏まえて、いよいよ為替介入の話に入ります。
為替介入も等価交換
近年行われている為替介入は、円安を是正する、円高に誘導するための介入です。日本が持っているアメリカドルを売って、日本円を買う、という取引・両替が行われました。
繰り返しますが、交換は基本的に等価交換です。
今回、約11兆円ぶんのアメリカドルを売ったわけですが、それによって手に入ったのは同じく約11兆円ぶんの日本円ですので、等価交換が行われているだけです。
お金が消えてなくなったのではなく、同額の日本円に姿を変えただけ。使ったら消える、という話ではありません。
為替介入は税金のムダではない
では本題です。この為替介入によって税金が無駄になるのか、使える税金の量が減るのか、というと、そういうわけではありません。
原資は「外国為替資金特別会計(外為特会)」
為替介入に使われた資金は、国民から集めた税金ではありません。
為替介入には「外国為替資金特別会計(外為特会)」という専用の財布が使われています。日本政府はもともとこの口座に大量の米ドルを保有しています。
既に持っていた米ドルを日本円に両替しただけであり、一般会計の税金を支出して購入したわけではありません。
先ほど、価値の持ち方にはいろいろあるという話をしました。野菜だけで持つ持ち方、日本円だけで持つ持ち方、株式やアメリカドルも混ぜて持つ持ち方。それは国も同じで、日本も価値を日本円だけでなく、アメリカドルでも持っています。そのアメリカドルを使っているだけなので、税金を使っているわけではない、ということです。
※まあ、そのドルは借金で買ったものではあるのですが。
※あと、厳密に言うと、外国為替資金特別会計(外為特会)はアメリカドルの現金ではなく、アメリカドルで買った米国債という形で保有しています。
※米国債は、アメリカ政府の借金です。アメリカ政府が「お金を貸してください」と呼びかけて、貸してくれた人に発行する証券、いわば借用証明書のようなものを、日本は大量に保有しています。それをどこかで売るとアメリカドルが手に入り、そのドルを使って日本円を買う。日本円と交換すると日本円の需要が上がるので、日本円の価値が上がって円高になる、という仕組みです。
まとめると、「為替介入によって国民の税金が使い込まれ、無駄になった」という解釈は誤りです。国民の財産を一方的に浪費したわけではありません。
とはいえ、問題がないわけではない
今回の為替介入は税金の無駄ではないとして、じゃあ完全に問題ないのかというと、そういうわけでもありません。
①財布の中身には限りがある
為替介入に使われる「外国為替資金特別会計」という専用の財布に入っているアメリカドルには限りがあります。有限です。
だから、今回やったのと同じような為替介入ができる回数は限られています。
同じことを繰り返していると、いつかできなくなってしまう。本当に円安が進んで大変なことになったときに、いざ為替介入をしようとしてもできない、という可能性があるわけです。財布には限りがあるので、問題がないとは言えません。
②アメリカにも影響が及ぶ
為替介入をすると、アメリカも困る、という事情があります。
大量にアメリカドルを売って日本円を買うということをすると、通貨の価値を測る目盛りが動きます。日本円の目盛りが伸びて、アメリカドルの目盛りがちょっと縮む。
世界中のみんなが共有しているこの価値の目盛りを、日本のためだけに調整しようとするわけですから、それによって影響を受ける人がいます。特にアメリカが影響を受けます。米国債の金利にも関わってくる話なので詳しい説明は省きますが、誰にも迷惑をかけていないわけではない、ということです。あまりやりすぎると、世界も困る、という感じですね。
「為替差益で得しているんだから、プラスだ」論について
最後に、「為替差益で儲けているんだから、今回の介入はプラスなんだ」という意見についてです。
今回の為替介入に使われたドルは、過去に入手したドルです。平均すると1ドル=100円くらいの水準で手に入れたアメリカドルだと言われています。(公表されていないので推計になりますが)
それを1ドル=160円で売却したということは、日本円に換算するとかなりプラスになっている、得しているじゃないか(これを「為替差益」と言います)。だから、為替介入によって日本はプラスなんだ。という人もいるのですが、これはちょっと違うんじゃないかな、と思います。
国全体として持っている資産の価値が、実質的に増えるわけではないからです。
会計上・帳簿上の数値だけを見れば、確かに含み益が実現し、日本円としての額面は大きく増えています。でも、これは、過去は1ドル=100円だったのが今は1ドル=160円になっている、つまり日本円という通貨が持つ価値の目盛りが縮んだからこそ起きていることです。会計上、たまたま生まれている数字なだけです。
その裏では円安によって輸入物価が上昇し、家計や消費者の実質所得が削られるという痛みを伴っています。
両替という行為自体が新たな価値を生み出しているわけではないため、国全体の富が実質的に増加したと捉えるのは不適切。「為替差益が出た、儲かった。だからプラスなんだ」というのは違うと思います。
まとめ
為替介入(ドル売り・円買い介入)の評価を整理すると、以下のようになります。
- 「税金の無駄遣い(マイナス)」ではない:一般会計の税金ではなく、外為特会が保有する米ドルを日本円に等価交換しただけであるため。
- 「儲かったから万々歳(プラス)」でもない:円安によって円の価値自体が低下した結果として帳簿上の差益が出ているだけであり、実質的な富が増えたわけではない。
為替介入は、税金を無駄にする愚策でもなければ、儲けを生む魔法の手段でもありません。
あくまで「通貨価値の過度な変動を和らげるための緩和措置(一時的な調整手段)」です。







