なぜシンガポールは国際金融センターになれたのか?

シンガポールは、ニューヨーク、ロンドン、香港と並ぶ国際金融センターです。
なぜシンガポールは国際金融センターになれたのでしょうか。
そもそも「国際金融センター」とは?
金融というのは、お金が余っている人から、お金を必要としている人へ、資金を融通することを指します。銀行や証券会社などが、その実務を担っています。
金融センターとは、こうした資金の融通が活発に行われている場所のことです。
日本の金融センターは東京都中央区の日本橋兜町(かぶとちょう)です。東京証券取引所がある場所。
で、このような金融センターが、国内の人にとどまらず世界中の人が関わって、地球規模でお金が集まって融通し合う場所になった場合、これを「国際金融センター」と呼びます。
国際金融センターの代表例は4つです。ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポール。
国際金融センターは世界に3〜4つあればOK
この国際金融センターというのは、理論上、世界に3つか4つあればOKです。というのも、世界に3つか4つあれば、世界の24時間をカバーすることができるからです。
時差を考慮して
人間の経済活動は、基本的に日中の明るい時間帯に行われます。人間は夜は寝るので。
ニューヨークで言うと、ニューヨークで活発にお金が動く(=資金の融通が行われる)のは日中です。みんなが起きているからです。一方、ニューヨークが夜を迎えると、企業の活動時間が終わってみんな寝るので、お金の動きは落ち着きます。
ニューヨークが夜を迎えたとき、朝を迎えているのはアジアです。地球全体で見ると、今度はアジアで資金の動きが活発になります。
地球には時差があるので、こんな感じで「金融活動が活発に行われている場所」のバトンが、どんどん西へ西へと渡されていきます。
この「金融活動が活発に行われている場所」(=金融センター)が、24時間、地球上のどこかに存在してほしい。そうすれば、お金が余っている組織は、24時間いつでも余剰資金の運用や調達(資金の融通)、そして為替や資産のリスク管理を途切れずに行えるようになります。
地球の24時間をカバーするためには、理論上、だいたい8時間ずつの時差があるところに3つ国際金融センターがあればOKです。
| アジア(香港・シンガポール) | 日本時間 午前9時〜夕方18時頃 |
| 欧州(ロンドン) | 日本時間 午後16時〜深夜1時頃 |
| 北米(ニューヨーク) | 日本時間 午後21時30分〜翌朝6時頃 |
なぜ24時間カバーする必要があるのか
夜、人が寝ている間は、銀行や証券会社、企業も活動を停止します。
でも、ニューヨークやロンドンが眠っている時間帯に、世界のどこかで大災害や戦争といった突発的な出来事が起きたら、どうなるでしょうか。
みんな寝ていて、夜の現地市場が閉まっている状態では、即座に対応できません。必要な人に片っ端から電話をかけて「起きろ」と言って、証券会社や銀行に集めるわけにもいかないし、時間もかかります。
とはいえ、自国の市場が開くのを待っていては巨額の資産が危機にさらされます。
そこでどうするかというと、地球の裏側(こっちは夜だけど、あっちは昼という場所)に拠点(支店)を設けます。
こうすることで、昼間を迎えている場所のスタッフが即座にリスクヘッジの取引を実行できるようになり、空白時間をなくして、24時間いつでも資産を守れるようにできるわけです。
アジアの担い手は香港とシンガポール
ニューヨークとロンドンが国際金融センターであることを前提とすると、24時間をカバーするためにはアジアに1つあればいい。その役割を果たしているのが、香港とシンガポールです。
もちろん、それ以外は全く不要というわけではなく、東京やオーストラリアなど、いろんなところに金融センターはあります。ただ、大きな中核となるものは3つか4つあれば、理論上は十分ということです。
※なんで香港とシンガポール、2つもあるの?1つでいいじゃないか!という疑問もあると思いますが、それについては今回は省略します。
なぜシンガポールが選ばれたのか
では、アジアの中でなぜ、シンガポールが国際金融センターになれたのか。3つの理由を説明します。
理由①:植民地時代からの金融業の蓄積
マラッカ海峡に位置するシンガポールは、東南アジアと欧米・中国を結ぶ中継貿易の拠点として繁栄しました。
- 銀行業の発展:貿易に伴う巨額の資金決済や為替両替を担うため、早くから近代的な銀行ネットワークが形成されました。
- 保険業の発展:船の沈没や海賊などのリスクをヘッジするため、海上保険をはじめとする保険業が自然と発達しました。
理由②:1970年代のアジア発展への期待
第二次世界大戦から四半世紀が過ぎた1960〜1970年代、タイやマレーシアをはじめとする東南アジア諸国が本格的な経済発展期に入り、工場建設やインフラ整備のための莫大な開発資金が必要になりました。
世界で余っている投資マネーをアジアに集め、成長地域へ融通するハブが求められる中で、シンガポール政府は1968年に「アジアドルのオフショア市場(アジア・ドル・マーケット)」を開設。外国の余剰資金を呼び込むための優遇税制をいち早く導入し、アジアの金融需要を先手で掴み取りました。
理由③:環境の良さ
アジアの候補地の中からシンガポールが選ばれ続けた決定打は、シンガポールの統治システムとビジネス環境の質の良さです。
- クリーンな政治と法の支配:腐敗や汚職が徹底的に排除されており、英米法(コモン・ロー)をベースとした透明性の高い法制度が確立されているため、「理不尽な法律で突然、資産を没収されるリスク」が極めて低いです。
- 公用語としての英語:ビジネス・行政のベースが英語であるため、欧米の金融機関や多国籍企業がそのまま進出できます。
- 高水準の通信・都市インフラ:世界最速レベルの通信網や強固なデータセンター環境が整備されており、ミリ秒単位の国際取引に耐えうるインフラを備えています。
まとめ
シンガポールが世界的な国際金融センターとなった理由は、以下の要素が組み合わさった結果です。
- 地理:ニューヨーク、ロンドンから離れた、ちょうどいい場所にあった。
- 歴史:イギリス植民地時代の中継貿易によって、銀行・保険の下地が整っていた。
- 周辺環境:1970年代頃から、東南アジアが経済成長期を迎えた。
- 社会システム:英語環境、クリーンな行政、強固な法制度と通信インフラによって、世界中の資本に安心感を与えた。
ちなみに香港も同じような理由で国際金融センターになりました。が、香港には香港で、また別の事情(中国本土との関係)もあります。それについては、また今度説明したいと思います。















